障害者差別解消法と教育現場における合理的な配慮のあり方が問題となった事案
名古屋地裁R2.8.19
<事案>
気管カニューレ等を挿管しているX1(判決時中1)並びにその両親であるX2及びX3が、
(1)X1が教育を受けるためには喀痰吸引器具が必要であり、Y(地方公共団体)には障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(「障害者差別解消法」)7条2項にいう合理的な配慮として、X1のために喀痰吸引器具を取得し、これを保管するなどの義務がある
⇒
行訴法4条後段の当事者訴訟として、障害者差別解消法7条2項に基づき、喀痰吸引器具の取得及び保管等を請求するとともに(争点①)
(2)X1がA小学校に在学中
ア:B町教育委員会がX1の登校の条件として、喀痰吸引器具の準備及びその費用をX2ないしX3の負担とするとともに、父母にX1の登校日に喀痰吸引器具等を持参するよう義務付けたこと(争点②)
イ:A小学校の校長らが、X2の校外学習に父母の付添いを求めたこと(争点③)
ウ:A小学校の校長らが、X1が父母の付添いなく地域の通学団に参加することができるよう、通学団の児童の保護者に適切な働きかけをしなかったこと(争点④)
エ:A小学校の校長らが、X1を水泳の受業に参加させず、又は水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったこと(争点5)が
いずれも国賠法上違法
⇒Yに対し、それぞれ、損害賠償金(慰謝料等)110万円及び遅延損害金の支払を求める事案。
<判断>
●争点①
障害者差別解消法7条2項は、個々の障害者に対して合理的な配慮を求める請求権を付与する趣旨の規定ではない⇒Xらが、Yに対し、同項に基づいて喀痰吸引器具の取得及び保管等を請求することはできない。
●争点②
町教委がX1の登校の条件として喀痰吸引器具の取得並びに父母による同器具及び連絡票の持参を義務付けたことは、次の①~③などの事情の元においては、障害者差別解消法7条等に違反するものではなく、町教委の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。
①
②
③
●争点③
A小学校の校長らが、X1の校外学習に父母の付添を求めたことは、次の①~③などの事情に下においては、障害者差別解消法7条に違反するものではなく、校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。
①
②
③
●争点④
A小学校の校長らにおいてX1が父母の付添いなく地域の通学団に参加することができるような働き掛けをしなかったことは、次の①②などの事情の下においては、通学団の児童の保護者がX1が通学団に参加する際に父母の付添いを求めるなどしたことには正当な理由がないとはいえない⇒国賠法上違法であるとはいえない。
①
②
● 争点⑤
A小学校の校長らが、X1を1年次から3年次まで水泳の授業に参加させず、4年次の当初からX1の受業に高学年用プールを使用しなかったことは、次の①②などの事情の下においては、障害者差別解消法7条等に違反するものではなく、校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。
①
②
<解説>
障害者差別解消法が平成28年4月1日に施行され、同法7条により、行政機関等において障害者に対する合理的な配慮を行うこと及び不当な差別的取扱いを行なわないことが法的義務として明確に位置付けられた。
but
教育現場における合理的な配慮の在り方等が正面から争点となった民事訴訟はこれまであまり見当たらない。
本件の事実関係に即した判断が示されているにとどまり、特に合理的な配慮ないし不当な差別的取扱いに関する一般的な規範が定立されているわけではない。
判例時報2478
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