後行者が途中から共謀加担した場合と刑法207条
最高裁R2.9.30
<事案>
先行者が暴行を加えた後、これと同一の機会に後行者である被告人が共謀加担したが、共謀成立後の暴行と被害者の負った傷害との間の因果関係の証明がない場合における刑法207条の同時傷害の特例の適用の可否(「本論点」)が問題となった事案。
<規定>
第207条(同時傷害の特例)
二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
<1審>
A及びBが被害者に対する暴行を開始した後、途中から被告人との現場共謀が成立。
本論点につき積極説に立ち、
被害者の負った傷害のうち、共謀成立後の暴行との因果関係の証明はないものの、同暴行によって生じた具体的可能性のある傷害について、
共謀成立の前後にわたる同一機会における暴行により生じたものであり、共謀成立前のAらの暴行によって生じたものか、共謀成立後の被告人ら3名の共同正犯の暴行によるものかを知ることができないときに当たる⇒同時傷害の特例の適用により、被告人も刑責を負う。
<原審>
第1審の解釈を是認。
<判断>
刑法207条が適用できるのは、傷害が先行者の暴行によるものか後行者である被告人の暴行によるものかを知ることができない場合であり、後行者が当該傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えている必要があるとの解釈を示し、
原判決は、共謀成立前の先行者の暴行と共謀成立後の共同暴行との間に適用できるとした点で、同条の解釈適用を誤った法令違反があるが、判決に影響を及ぼさない。
⇒上告を棄却。
<解説>
●判例の動向
最高裁H24.11.6:
他の者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に、被告人が共謀加担した上、更に暴行を加えて被害者の障害を相当程度重篤化させた場合、被告人は、被告人の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しない共謀加担前に既に生じていた傷害結果については、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはない。
~
共謀成立後の暴行と被害者の負った傷害との間の因果関係の証明がない⇒後行者に対し、刑法60条により当該傷害についての責任を問うことはできない。
刑法207条に関する判断は示していない。
最高裁H28.3.24:
共犯関係にない2人以上が暴行を加えた事案における刑法207条の適用について、
検察官が、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行なわれたこと、すなわち、同一の機会に行われたものであることを証明
⇒各行為者は、自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない。
●学説
〇A:積極説
B:消極説:
刑法207条が個人責任主義や利益原則の例外規定であることを強調⇒傷害結果について誰も責任を負わなくなる場合のみについての規定
●本決定:
最高裁として初めて積極説を採用するとともに、
刑法207条の適用の前提となる事実関係は、先行者の暴行と後行者(被告人)の暴行との間に証明される必要があり、
同条を適用するためには、後行者が当該傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えている必要があるとの解釈を示した。
判例時報2478
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