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2021年7月

2021年7月31日 (土)

参院選(比例代表選出)議員の選挙についていわゆる特定枠制度を定める公選法の規定の合憲性

最高裁R2.10.23

<事案>
令和1年7月21日に施行された参院選(比例代表選出)議員選挙に係る選挙無効請求事件
特定枠制度位:参院選(選挙区選出)議員選挙における合区により候補者を擁立できなかった県の候補者を特定枠によって当選させることを目的として設けられたもの⇒選挙人の意思と関係なく議員が選ばれているに等しく、選出された議員は「全国民の代表者」(憲法43条1項)に該当しないと主張。

<判断>
平成30年改正後の参議院(比例代表選出)議員の選挙制度は、政党等にあらかじめ候補者の指名及び特定枠の候補者を定める場合にはその指名等を記載した名簿を届け出させた上、選挙人が名簿登載者又は政党等を選択肢て投票を行い、各政党等の得票数に基づきその当選人数を決定した上、各政党等の名簿の記載された特定枠の順位及び各候補者の得票数の多寡に応じて当選人を決定する選挙制度

投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。
特定枠制度を定める平成30年改正後の公選法の規定は、憲法43条1項等に違反するものではない。

<解説>
● 憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

憲法 第44条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

● 憲法は、国政選挙については直接選挙を明記していない。
but
15条1項、3項、44条等に照らせば、国政選挙についても直接選挙を保障する趣旨。
直接選挙と間接選挙との差異は、選挙人の意思と選挙の結果(当選人の決定)との間に他の意思が介在するかどうかにある。
特定枠制度においても、当選の決定に選挙人以外の意思は介在しない。

判例時報2481

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2021年7月30日 (金)

優生保護法と憲法違反

札幌地裁R3.1.15

<事案>
改正前の優生保護法に基づいて優生手術を強制されたとする原告が、
①被告(国)において旧優生保護法を制定し、これを平成8年まで改廃しなかったこと、
②平成8年に旧優生保護法を改廃した後も救済措置等を採らなかったこと
などに違法がある⇒国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。

<判断>
旧優生保護法の本件各規定は、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反すると判断。
国会議員において、旧優生保護法を制定し、これに本件各規定を設けたことは、国賠法1条1項の適用上違法。
平成8年の旧優生保護法改正後に国会議員が被害者救済のための立法措置を採らなかったことは、国賠法1条1項の適用上違法とはいえない。
損害賠償請求権は、国賠法4条、民法(平成29年改正前のもの)724条後段に基づき、優生手術時から20年後の昭和55年頃の経過をもって消滅。

<解説>
●憲法13条
最高裁昭和44.12.25(京都府学連でも事件判決):
個人の私生活上の自由が公権力の行使に対して保護されるべきことを規定。

本判決:
子を産み育てるか否かを自らの意思で決定する自由は、個人の尊厳に直結する、人格的な生存に不可欠なものとして、私生活上の自由の中でも特に保護される権利の1つというべき。
旧優生保護法の本件各規定は、子を産み育てるか否かについての意思決定の自由を直接的に侵害するものであり、その立法目的には合理性がおよそ認められない
憲法13条に違反

●憲法14条1項
法の下の平等を定めたものであり、後段の列挙事由は例示的なものであって、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨(最高裁昭和39.5.27)。

本判決:
旧優生保護法の本件各規定は、精神病等の特定の疾患を有する者に対し、本人の同意を要件とせずに優生手術を行う旨定めたものであり、法的な差別的取扱いをするものであって、これを正当化する合理的な根拠はおよそ見出し難い
⇒憲法14条1項に違反。

●憲法24条2項
最高裁H27.12.16(再婚禁止期間訴訟判決)、最高裁H27.12.16(夫婦別姓訴訟判決):
婚姻及び家族に関する事項につき具体的な制度の構築を第1次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したもの。

本判決:
子を産み育てるか否かというのは家族の構成に関する事項でもあるところ、旧優生保護法の本件各規定は子を産み育てるか否かについての意思決定をする自由を侵害していたものであって、このような規定が個人の尊厳に立脚したものということはできないのであり、その合理的な根拠もおよそ見出し難い。
旧優生保護法の本件各規定は、国会の合理的な立法裁量の限界を逸脱したものであって、憲法24条2項に違反

●旧優生保護法の制定と国賠法1条の1項の違法性
国会議員の立法行為・立法不作為の違法性:
最高裁H17.9.14(在外日本人選挙権訴訟判決)及び前掲再婚禁止期間訴訟判決:
立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を採ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国賠法1条1項の既定の適用上、違法の評価を受ける。

本判決:
旧優生保護法の本件各規定は憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであり、その内容は国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白⇒国会議員において、旧優生保護法を制定し、これに本件各規定を設けたことは、国賠法1条1項の適用上、違法の評価を受ける。

●被害者救済のための立法措置を採らなかったことと国賠法1条1項の違法性
国民に憲法上保障されている権利である国家賠償請求権(憲法17条)の行使の機会を確保するための立法としては、既に昭和22年制定に係る国賠法が存在。
同法に加えて、旧優生保護法による優生手術を受けた者が国賠請求権を行使する機会を確保するための更なる立法措置を採ることが必要不可欠であったとか、それが明白であったなどということは困難。

原告のいう補償請求権が憲法上の権利として憲法13条、24条、25条により直ちに認められているとか、その趣旨から導き出されるとはにわかに断じ難く、結局のところ、旧優生保護法による優生手術を受けた者に対して補償給付を行うのか、仮に行うとしてどのような要件・手続によりどのような内容の補償給付を行うのかというのは、国会に委ねられた立法裁量の問題

●除斥期間(民法724条)
除斥期間について
①民法724条後段の規定は、消滅時効を定めたものではなく、除斥期間を定めたもの(最高裁H1.12.21)
②同規定の趣旨は、被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたもの(最高裁)
③除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、主張自体失当であると解すべき(最高裁)
④民法724条後段の効果が生じないとした裁判例は、判断の根拠となる規定(民法158条、160条)が存在していたものであって、本件とは事案を異にする。

判例時報2480

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2021年7月22日 (木)

児童福祉法28条1項に基づく、児童心理治療施設等への入所措置の承認申立ての事案

大阪家裁R2.3.6

<判断>
母及び継父に児童を監護させることは児福法28条1項所定の「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」に該当
⇒児福法28条1項1号、27条1項3号に基づき、児童を児童心理治療施設又は児童養護施設に入所させて安定的な生活環境を与えることが必要⇒同施設への入所を承認。

<解説>
大阪高裁H29.12.15:
①事件本人が負った急性硬膜化血腫等の傷害について、事件本人親権者父及び同母による揺さぶり行為等が強く疑われ、父母は揺さぶり行為等の外力を否認し、あるいは存在自体を軽視し、自らの監護養育環境における問題点に真摯に向き合い危険の再発防止のための具体的な方策を講じることができていない

父母に事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害するといわざるを得ない

抗告人の申立てを却下し、原審判を取り消し、抗告人が事件本人を乳児院又は児童養護施設に入所させることを承認。

水戸家裁H30.5.28:
①利害関係参加人である実父及び義母による虐待は認められない
but
実父の事件本人に対する強圧的な接し方により、自閉症スペクトラムの傾向がある事件本人が実父に著しい恐怖を抱き心的外傷を負っていること、利害関係参加人らがこの点を理解しないまま事件本人接する可能性が極めて高い

利害関係参加人らに事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害する

申立てを認容して児童心理治療施設に入所させることを承認。

判例時報2480

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2021年7月21日 (水)

カリフォルニア州法が準拠法⇒協議離婚は無効

東京家裁R2.3.23

<事案>
アメリカ合衆国国籍を有し日本に居住する原告Xが、検察官を被告として、平成11年11月23日付け在サンフランシスコ日本国総領事に対する届出によってなされた、アメリカ合衆国国籍を有し(日本からアメリカ合衆国に帰化)同国で死亡した亡夫との協議離婚(本件離婚) について方式の違法ないし離婚意思の欠缺により無効⇒その確認を求めた。
亡夫は日本からアメリカ合衆国に帰化した米国在住の女性Zと再婚し、同女が被告を補助するため訴訟参加。
X夫婦は、国籍離脱届未了⇒同夫婦の日本の戸籍に協議離婚の記載がなされた。

<主張>
X:
本件離婚の準拠法は、カリフォルニア州法であり、同法は協議離婚の方法による離婚を認めていない⇒本件離婚は無効。
Xの 離婚意思を欠いた無効なもの。

Z:
本件離婚届が提出された当時、Xのドミサイルは日本にあったといえる⇒日本の方式でなされた本件離婚は有効であり、Xには離婚意思があった。
Xの主張は、生存配偶者としての法定相続権を実質的に主張するもの⇒エストッペル(禁反言)によって制限される。

<過去の判断>
差戻前第1審判決:
人訴法(平成30年法律第20号による改正前のもの)が適用される本件について、
Xは亡夫に遺棄されたとは認められない⇒わが国の国際裁判管轄を否定して訴えを却下。

差戻前控訴審:
・・・わが国の国際裁判管轄を肯定し、訴えの利益も認められるとして、本件を東京家裁に差し戻した。

<判断>
●準拠法
離婚の準拠法:
法適用通則法附則2条により同法27条が準用する同法25条の適用により、
夫婦の「本国法」が同一であるときはその法によるとされる。
but
X及び亡夫は、本件離婚届出提出時にアメリカ合衆国国籍を有していたところ、アメリカ合衆国は同法38条3項にいう「地域により法を異にする国」に該当し、当事者の本国法は「その国の規則に従い指定される法」になるが、米国にはその規則がない

「当事者に最も密接な関係がある地域の法」が問題となるが、

亡夫は昭和54年以降死亡するまでカリフォルニア州に居住しており、本件離婚届提出時における最も密接な関係があるアメリカ合衆国の地域はカリフォルニア州
⇒カリフォルニア州法が亡夫の本国法となる。
Xの本国法もカリフォルニア州法となる。

カリフォルニア州法が本件離婚の準拠法
離婚の方式の準拠法も、法適用通則法34条1項によりカリフォルニア州法。

●本件離婚の方式の違法性
カリフォルニア州家族法310条によれば、離婚関係の解消の方式は原則として裁判所による判決のみであって、当事者間の協議の方式による離婚は認められていない
方式において違法であり無効

●エストッペル法理(禁反言の法理)
本件離婚の無効を前提とする権利義務ないし法律関係を主張するときに同法里の適用があり得るとしても、本件離婚の無効確認の主張そのものが同法里によって違法となると解することはできない。

判例時報2480

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2021年7月20日 (火)

保険法施行後に締結された人身傷害補償保険契約の死亡保険金部分の帰属

福岡高裁R2.5.28

<事案>
平成28年1月2日に自動車運転中の自損事故により死亡した亡Aの妻子であるXらが、亡Aと損害保険会社Yとの間で平成26年12月12日に締結された新総合自動車保険契約の人身傷害補償条項「本件人傷条項」に基づき、
亡Aの死亡に係る保険金請求権を保険金受取人として取得し、またはこれを取得した亡Aから相続⇒Yに対し、それぞれの法定相続分に応じた保険金の支払を求めた。

<主張>
Y:
故意重過失免責
請求権は亡Aに帰属し、Xらが亡Aの相続を放棄⇒亡Aの取得した保険金請求権を相続していない

本件では、被保険者を保険金請求権者とする定めに付された
「被保険者が死亡した場合は、その法定相続人とします。」との注記の趣旨が問題。

<判断>
被保険者死亡の場合には、本件人傷条項に基づく保険金請求権がいったん被保険者に帰属し、その法定相続人がこれを相続する趣旨
Xらのうち、相続放棄の前に本件の事故車両を売却した亡Aの妻X1には法定単純承認が成立⇒X1の請求のみを認容。

<解説>
●人身傷害補償保険
被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者等が被る損害に対して、約定された損害賠償算定基準(人身傷害条項損害算定基準)に基づき積算された損害額が填補される保険契約。
①被保険者が被保険車両や他車両に搭乗中に、自動車の運行に起因する急激かつ偶発な外来の事故により身体に傷害を被ることによって、被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害に対して保険金を支払うことを目的とし、当該事故の直接の結果としての被保険者の傷害、後遺障害、死亡による損害を保険の対象とすること
②支払保険金額は、当該保険会社の定める基準により決定
③損害賠償金等により損害がてん補された場合は、その額が保険金から控除
④保険金支払により保険者は損害賠償請求権を代位取得
するといった基本構造。

●死亡保険金請求権の帰属
◎ 平成22年4月1日に施行された保険法

旧商法と異なり、
損害保険契約(保険法2条6号)及び生命保険契約(同条8号)のほかに、
傷害傷病保険契約についての規定を設け、
そのうち傷害疾病損害保険契約(同条7号)を損害保険契約の一類型とする一方、
傷害疾病定額保険契約(同条9号)を損害保険契約及び生命保険契約とは異なる契約類型として位置付け。
人傷保険の約款においては、被保険者死亡の場合、その法定相続人が保険金請求者になるものとされており、この点の約款文言には、保険法制定の前後を通じて変更がない。
保険法の下において、人傷保険の死亡保険金部分が傷害疾病損害保険契約もしくは傷害疾病定額保険契約のいずれの契約類型に位置づけられるのか、またはこれらと異なる非典型契約と解されるのかが問題。

◎学説:
保険法施行後に締結された人身保険の死亡保険金部分の法的性質とその請求権の帰属について
A:傷害疾病損害保険契約であり、死亡保険金請求権は、被保険者によって原資取得される
B:傷害疾病定額保険契約であり、保険金請求権は、法定相続人によって原資取得される
C:非典型契約としての不定額給付型傷害保険契約であり、死亡保険金請求権は、第三者のためにする契約により固有権として法定相続人に帰属する

◎本判決:
本件人傷条項に基づく死亡保険金請求権は、被保険者である亡Aが取得

①本件人傷条項は、この保険が被保険者に生じた損害をてん補することを目的とし、保険金額が生じた損害の額に即して定めるものとしている⇒それに基づく保険金請求権は、てん補すべき損害が生じた主体である被保険者に帰属するものと解するのが自然
②保険法上、そのような保険契約は、「損害保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病によって生ずることのある損害(当該傷害疾病が生じた者が受け取るものに限る。)をてん補することを約するもの」である傷害疾病損害保険契約」の存在を前提として、同契約に対する損害保険の規定の適用に係る読み替え規定(同法35条)を置いており、同法上、損害保険契約において、被保険者以外の者が保険金請求権者となることは想定されていない
人傷保険の死亡保険金請求権が被保険者に帰属すると解することが、保険契約者および被保険者の合理的意思に合致し、自ら損害を被ることがない被保険者の相続人が直接保険金請求権者となることは、本件人損条項の保険金請求権者の定義規定(同条項1条)の文言に照らして無理がある。

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2021年7月19日 (月)

子の常居所地国が争われた事案

大阪高裁R1.10.16

<事案>
子(C)の父である抗告人(A)が母である相手方(B)に対し、相手方による留置によりCに対する監護の権利が侵害された⇒国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づき、Cを常居所地国であるスリランカ民主社会主義共和国に返還することを求めた

<判断>
常居所とは、人が常時居住する場所で、単なる居所とは異なり、相当長期間にわたって居住とする場所をいうものとされ、居住年数、居住目的、居住状況等を総合的に勘案して認定すべきもの。
特に子が低年齢である場合には、子の常居所の獲得については、以前の常居所を放棄し新たな居所に定住するとの両親の共通の意思を重視すべき。、
本件の事実関係⇒Cについて、日本における常居所を放棄し、スリランカに定住するという抗告人と相手方の共通の意思は形成されていない。
・・・・本件留置時において、Cの社会的結びつきも、スリランカよりも日本の方が強かったということができる。

<解説>
諸外国の裁判例:
子の常居所地国の認定に際して考慮すべき事情につき、
A:両親の意思を重視するモデル、
B:子に関する事情を重視するモデル
C:子に関する事情を中心としつつ両親の意思も踏まえて検討すべきとして両者の統合を試みるモデル
などがある。

EU諸国や米国においては、近年、ハイブリッド・モデルが採用されているものと評価。

日本の裁判例:
多くの決定例では、居住期間、居住目的、居住に至った経緯、居住状況等の諸要素が総合的に考慮され、事案に応じて個別具体的な判断がされている。

子が幼少である場合は、
定住に向けた両親又は監護hさの意思を基準にする例が多いが、
子の客観的な滞在状況を基準とした例もあり、
判断は分かれているとされている。

本件:
期間としてはスリランカでの生活の方が長かった
but
抗告人及び相手方においては、子(C)について、日本で日本人として暮らすという監護方針があり、日本に帰化申請をしていた事案

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2021年7月17日 (土)

被相続人の夫について推定相続人廃除が申し立てられた事案

大阪高裁R2.2.27

<事案>
被相続人のが遺言公正証書においてその夫である抗告人を廃除する意志を表示⇒遺言執行者が、抗告人につき推定相続人廃除を申し立てた。

<規定>
民法 第八九二条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

<原審>
・・・一連の抗告人の行動が被相続人に対す虐待及び重大な侮辱に当たると判断⇒抗告人を被相続人の推定相続人から廃除。

<判断>
推定相続人の廃除事由である被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行は、被相続人との人的信頼関係を破壊し、推定相続人の遺留分を否定することが相当であると評価できる程度に重大なものでなければならず、夫婦関係にある推定相続人の場合には、離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)と同程度の非行が必要

①離婚訴訟におては、被相続人が前記重大な事由はないと主張して抗告人の離婚請求を争い、その判決におても同事由の存在が認められなかったこと
②被相続人と抗告人との間に紛争があったものの、被相続人が抗告人と共に約44年にわたって事業を営んできており、被相続人の遺産が当該事業を通じて形成されたもの
両者間の紛争は当該事業に関して生じたものであってその期間も約5年にすぎず、抗告人の被相続への遺産形成への寄与が大きい

抗告人の被相続人に対する言動がその遺留分までも否定することを正当と評価できる程度に重大なものとは認められず、廃除事由に該当しない。

<解説>
廃除に相続権を有する推定相続人から遺留分を否定して相続権を完全にに剥奪するという強い効果が認められる⇒推定相続人に相続的協働関係を破壊する程度のものであることを必要とするアプローチにより、夫婦又は養親子関係にあった者の場合には、婚姻又は縁組を継続し難い重大な事由とその趣旨を同じくするとの理解のもとに、離婚又は離縁が認められるであろうと考えられる程度の非行の有無が一応の基準となるとの立場が一般的。

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2021年7月16日 (金)

事故車両(都営バス)のドライブレコーダー映像が民訴法220条2号の準文書に該当⇒文書提出命令を肯定

東京高裁R2.2.21

<事案>
相手方(被告・東京都)が保有する車両(相手方車両)がAに衝突した交通事故(本件事故)に関して、Aの相続人である申立人(原告)が損害賠償を請求する事件。
申立人は、相手方に対し、民訴法220条2号、3号後段及び4号に基づき、本件ドライブレコーダー映像の提出を求めている。

<規定>
第二二〇条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき
三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。

イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書

ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書

ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

民訴法 第二二一条(文書提出命令の申立て)
2前条第四号に掲げる場合であることを文書の提出義務の原因とする文書提出命令の申立ては、書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければ、することができない。

<原審>
東京都情報公開条例によれば、
「個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの」(個人識別情報)に該当する情報が記載されている文書については、相手方は開示義務を負わないことが規定(同条例7条2号)。

①本件ドライブレコーダー映像は、相手方車両の前方の状況を撮影したものであって、道路を通行する車両や歩行者の容貌が記載されたもの⇒個人識別情報に該当⇒東京都情報公開条例に基づいて申立人が開示請求権を有するもとのは認められない⇒民訴法220条2号の準文書には該当しない。
②本件ドライブレコーダー映像は、原則として外部に提供しないことを前提として記録されたもの⇒そこに本件事故の状況が記録されているからといって、申立人と相手方との法律関係を明らかにするために作成されたものであるということはできない⇒民訴法220条3号後段の準文書には該当しない。
③相手方は、本件ドライブレコーダー映像につき、申立人から文書送付嘱託の申立てがあればこれに応じる旨回答⇒文書提出命令の申立てによって書証の申出をする必要はなく、民訴法220条4号を理由とする申立てをすることはできない。(民訴法221条2項)

<判断>
●文書提出命令を命じた

申立人は、相手方に対し、東京都情報公開条例に基づき、本件ドライブレコーダー映像の引渡し又は閲覧を求めることができると解すべきであり、本件ドライブレコーダー映像は民訴法220条2号に該当

●東京都情報公開条例:
何人も実施機関に対して公文書の開示を請求することができることを規定。
実施機関は、開示請求にかかる公文書に非開示情報が記録されている場合を除き、開示請求者に対して当該公文書を開示しなければならないこととされている。
非開示情報として「個人に関する情報で特定の個人を識別することができるもの」(個人識別情報)を定めている。
but
その例外として、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」を挙げている。

特定の情報が公開の対象となるか否かは、当該情報の開示により個人情報が開示されることによる不利益の程度と、当該情報の開示により保護される人の生命、健康、生活又は財産の重要性を比較衡量して判断すべきものと解するのが相当。


本件ドライブレコーダー映像は、走行中の都営バスにおいて記録された約2分間の短時間の映像
開示の目的が交通事故による損害賠償請求にかかる民事訴訟の証拠として使用するため

仮に本件ドライブレコーダー映像に特定の個人を識別できる情報が含まれているとしても、基本事件の訴訟中においてこれが開示されることによる不利益は非常に小さいものであることは容易に推知しうる。

基本事件は死亡事故にかかる損害賠償請求訴訟であり、過失相殺が争点

本件ドライブレコーダー映像の開示により過失割合に関する裁判所の判断が変動し、認容される損害賠償額が大きく変わる可能性は十分にある
⇒本件ドライブレコーダー映像の開示により保護される可能性がある財産的利益は、相当程度大きなものであるということができる。
⇒申立人が閲覧等請求権を有することを肯定。

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2021年7月13日 (火)

実父の養育費支払義務が未成年者の養子縁組により無くなる場合の始期


<事案>
未成年者らの実父である申立人Xが、未成年者らの実母である相手方Yに対し、未成年者らがYの再婚した夫である利害関係参加人Zと養子縁組⇒未成年者らの扶養義務は第1次的には実母と養父が負うべき⇒離婚時に合意された養育費の支払免除の調停申立て⇒不成立⇒審判に。

<原審>
①未成年者が親権者の再婚相手と養子縁組⇒未成年者らの扶養義務は、第1時的には親権者及び養親となった再婚相手が負う
②Y及びZにおいて未成年者らを養育することができず、Xにおいて第一次的に扶養する状況にあるとはいえない⇒XがYに支払うべき養育費は0とすべき
③養子縁組によってZが未成年者らの養育を引き受けたという事情の変更は、専らY側に生じた事由⇒始期については、Zが未成年者らと養子縁組した平成27年12月15日とするのが相当。

<判断>
始期について、
①既に支払われ費消された過去の養育費は合計720万円に上るうえ、その法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることはY及びZに不足の損害を被らせる
Xが、Yの再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら3年以上にわたって合計720万円の養育費を支払い続けた⇒Xは養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、未成年者らの福祉の充実の観点から養育費を支払い続けたものと評価することも可能

支払義務がないとする時期を本件調停の申立時として、原審判を変更。

<解説>
●養育費の減額
養育費の調停・審判がなされた後、事情の変更が生じたときは、家裁は、審判の変更をすることができる。

「事情の変更」協議又は審判の際に考慮され、あるいはその前提とされた事情に変更が生じた結果、調停や審判が実情に適さなくなったこと

前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度に事情の変更が顕著であることを要する。
←法的安定性の要請。

●始期
減額の変更の始期についてはは、原則として事情変更時に遡及
権利者と義務者のいずれの側に生じた事由であるかなどの諸事情を総合考慮して、変更の遡及効を制限すべき事由が認められるかを判断する枠組み。

判例時報2480

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2021年7月12日 (月)

ストーカー行為等の規制等に関する法律の「住居等の付近における見張り」とGPS機器による位置情報取得

最高裁R2.7.30

<事案>
被告人が、別居中の当事の妻Aが使用する自動車(A車)にGPS機器をひそかに取り付け、その後多数回にわたってA社の位置情報を探索して取得した行為がストーカー規制法2条1項1号所定の「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するかが問題。

<判断>
ストーカー規制法2条1項1号にいう「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためにば、機器等を用いる場合であっても、好意の感情等を抱いている対象である特定の者又はその者と社会生活において密接な関係を有する者の「住居等」の付近という一定の場所において同所における前記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する

本件位置情報取得行為は、Aが賃借していた駐車場の付近で行われたものではなく、また、同駐車場付記におけるAの動静に関する情報とはいえず、被告人の行為は前記の要件を満たさない
⇒「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しない。

<解説>
ストーカー規制法2条1項1号は、対象者に対し、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為を規制の対象として規定。
本判決は、「住居等の付近において」という場所的要件について、
①対象者の動静を観察する行為(「見張り」の実行行為)が対象者の「住居等の付近において」行なわれること、
観察される対象者の動静はその「住居等の付近」におけるものであることの
2つが必要である旨説示したものと解される。

判例時報2478

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2021年7月10日 (土)

後行者が途中から共謀加担した場合と刑法207条

最高裁R2.9.30

<事案>
先行者が暴行を加えた後、これと同一の機会に後行者である被告人が共謀加担したが、共謀成立後の暴行と被害者の負った傷害との間の因果関係の証明がない場合における刑法207条の同時傷害の特例の適用の可否(「本論点」)が問題となった事案。

<規定>
第207条(同時傷害の特例)
二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による

<1審>
A及びBが被害者に対する暴行を開始した後、途中から被告人との現場共謀が成立。

本論点につき積極説に立ち、
被害者の負った傷害のうち、共謀成立後の暴行との因果関係の証明はないものの、同暴行によって生じた具体的可能性のある傷害について、
共謀成立の前後にわたる同一機会における暴行により生じたものであり、共謀成立前のAらの暴行によって生じたものか、共謀成立後の被告人ら3名の共同正犯の暴行によるものかを知ることができないときに当たる⇒同時傷害の特例の適用により、被告人も刑責を負う。

<原審>
第1審の解釈を是認。

<判断>
刑法207条が適用できるのは、傷害が先行者の暴行によるものか後行者である被告人の暴行によるものかを知ることができない場合であり、後行者が当該傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えている必要があるとの解釈を示し、
原判決は、共謀成立前の先行者の暴行と共謀成立後の共同暴行との間に適用できるとした点で、同条の解釈適用を誤った法令違反があるが、判決に影響を及ぼさない。
⇒上告を棄却。

<解説>
●判例の動向
最高裁H24.11.6:
他の者が被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後に、被告人が共謀加担した上、更に暴行を加えて被害者の障害を相当程度重篤化させた場合、被告人は、被告人の共謀及びそれに基づく行為と因果関係を有しない共謀加担前に既に生じていた傷害結果については、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはない。

共謀成立後の暴行と被害者の負った傷害との間の因果関係の証明がない⇒後行者に対し、刑法60条により当該傷害についての責任を問うことはできない。
刑法207条に関する判断は示していない。

最高裁H28.3.24:
共犯関係にない2人以上が暴行を加えた事案における刑法207条の適用について、
検察官が、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行なわれたこと、すなわち、同一の機会に行われたものであることを証明
各行為者は、自己の関与した暴行がその傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れない

●学説
〇A:積極説

B:消極説:
刑法207条が個人責任主義や利益原則の例外規定であることを強調⇒傷害結果について誰も責任を負わなくなる場合のみについての規定

●本決定:
最高裁として初めて積極説を採用するとともに、
刑法207条の適用の前提となる事実関係は、先行者の暴行と後行者(被告人)の暴行との間に証明される必要があり、
同条を適用するためには、後行者が当該傷害を生じさせ得る危険性のある暴行を加えている必要があるとの解釈を示した。

判例時報2478

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2021年7月 9日 (金)

特許法101条2号の「その発明が特許発明であること・・・を知りながら」「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」の要件が問題となった事案。

大阪地裁H30.12.13

<規定>
特許法 第一〇一条(侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。

二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

<解説>
●「課題の解決に不可欠なもの」の要件
従来の裁判例:
従来技術の問題点を解決するための方法として、当該発明が新たに開示する、従来技術に見られない特徴的技術手段について、当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす、特徴的な部材、原料、道具等がこれに該当するものと解するのが相当
で、本判決もこれを踏襲。

●特許請求の範囲の訂正が行われた場合の、「その発明が特許発明であること・・・を知りながら」要件の判断時期
Y:特許法101条2号の文言上、主観的要件は譲渡等の行為時に具備されていなければならず、訂正前の行為についてこれを具備することはありえない
⇒訂正後の特許請求の範囲に係る発明を知った時に、この要件を満たすことになる。

本判決:
「特許請求の範囲の訂正が認められる場合が・・・限定されていること」等を理由として、訂正前の特許請求の範囲に係る特許発明を知っていれば足りる。
かつそれは、特許法101条2号が主観的要件を要求する趣旨に反しない。

●「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」要件における認識の程度
A:厳格説
「自己の供給する部材等が、他人緒特許発明に係る物の生産又は方法の使用に用いられ得るという、一般的な利用可能性の認識では足りず、現実に当該部材等が特定の者によって特許発明の実施に用いられている事実を認識していることを要するというべき」(三村量一)
「半会社において例外とはいえない範囲の者が部品等を違法用途に利用する蓋然性が高いことを認識していたとしても、幇助の過失責任が問われる場合はあるものの、主観的要件を充足しない。条文の文言上、あえて「過失」を除くこととした既定の趣旨からすれば、特許権の効力の不当な拡張にならないよう、主観的要件については厳格に解するのが相当」(高部眞規子)

B:緩和説
①部品等を違法用途に使用している購入者が特定している場合については、販売者において、当該購入者が部品等を違法用途に使用していることを認識しているときは、悪意が認められ、当該購入者に対する販売する行為および販売のための製造行為について間接侵害が成立し、
②部品等を違法用途に使用している購入者が特定していない場合については、販売者において、部品等が違法用途に使用される一般的可能性があることを認識ていたとしても、悪意は認められず、間接侵害は成立しないが、部品等の性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、販売者において、部品等を入手する者のうち例外とはいえない範囲の者がその部品等を特許権品議に利用する蓋然性が高いことを認識しているときは、悪意が認められ、同部品を製造、販売する行為について間接侵害が成立するとみて、間接侵害行為と目される当該行為について限定なく差止めを認めるという考え方も成り立つであろう。

本判決は、緩和説を採用。

判例時報2478

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2021年7月 8日 (木)

後見開始の審判の申立て(後に、申立ての趣旨を、補佐開始及び代理権付与の審判の申立てに変更)⇒任意貢献契約締結の事案

高松高裁R1.12.13

<事案>
抗告人(本人)は、ケアハウスに居住。
抗告人の二女である原審申立人は、抗告人につき後見開始の審判の申立て(後に、申立ての趣旨を、補佐開始及び代理権付与の審判の申立てに変更)。
家裁調査官が、抗告人の亡長女の子Dに対し、抗告人につき後見を開始することの意見照会⇒Dは、後見開始に反対。
抗告人とDは、弁護士と相談の上、令和1年5月15日、委任契約及び任意後見契約を締結し、同月20日、本件任意後見契約に関する登記がされた。

<判断>
「本人の利益のために特に必要があるとき」とは、
①任意後見人の法的権限が不十分な場合、
②任意後見人の不当な高額報酬の設定など任意後見契約の内容が不当な場合、
③任意後見法4条1項3号に該当するように受任者に不適格な事由がある場合、
④任意後見契約の有効性に客観的な疑念のある場合、
⑤本人が法定後見制度を選択する意志を有している場合
など、任意後見蹴薬によることが本人保護に欠ける結果となる場合をいうものと解するのが相当。
詳細な事実認定⇒本件では、本件任意後見契約によることが本人である抗告人の保護に欠けるえっかとなるとは到底認められず、本件で補佐開始をすることが本人である抗告人の利益のために特に必要があるとは認められない。

<解説>
任意後見と法定後見との関係の調整:
任意後見法10条1項が、「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認める時に限り、後見開始の審判等をすることができる。」と規定。

任意後見制度による保護を選択した本人の自己決定を尊重する観点から、原則として任意後見が優先
but
実務上は、本件のように、法定後見開始申立て後に結ばれる即効型任意後見契約には、何らかの親族間紛争を前提とした、他の親族による法定後見開始申立てへの対抗措置的な色彩が濃いことが多い上、契約締結時に本人の判断能力が既に低下しているため、内容に関する本人の真意性に疑義が生じる蓋然性も高い等、任意後見の濫用を疑わせる場合が少なくない。

判例時報2478

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2021年7月 7日 (水)

普通地方公共団体による国賠法1条2項に基づく求償金等請求が認容された事例

東京高裁R1.11.27

<事案>
X(茨城県古河市)が、建設業者であるA及びBから、指名競争入札において違法に指名を回避された⇒国賠請求訴訟を提起され、損害の賠償を命じる判決が確定したことに伴い、その賠償金をAらに支払ったことについて、当時の首長であったY1及び指名業者を選定する委員会の長又は職務代理等であるY2、Y3,Y4に対し、国賠法1条2項に基づく求償金及びXに生じたその余の損害(本件国賠請求訴訟における弁護士費用及び本件国賠請求訴訟後に設置された調査委員会費用等)の損害金の連帯支払を求めた事案。

別訴 本件国賠請求訴訟判決:
指名競争入札においてAらを排除した本件指名回避の違法性について、
本件指名回避は、AらがY1の対立候補を指示したことを契機とするものといわざるを得ず、Y1の指示によるものか担当者らがY1の指示なくその意向を汲んでしたものであるかにかかわらず、入札参加者として指名する業者の選定についてX等に恣意的な権限行使があったといえ、裁量権の逸脱又は濫用に該当し、違法である。

<原審>
棄却。

<判断>
Y1に対する請求の全部を認容し、Y2ないしY4に対する請求に関しては各担当期間に生じた損害金の限度で一部認容。

<解説>
●本件指名回避におけるY1らの関与についての事実認定の差
一審判決:
Y1が、報復のために、明示又は黙示の指示をして本件指名回避を行なわせていた可能性もあるが、管財課の職員が、Y1の意向を忖度して、勝手に本件指名回避を行った可能性も否定できない。
⇒Yらの故意責任を認定することに対して消極的。

本判決:
本件指名回避は、偶然の結果ではなく、本件各選挙において対立候補を指示した業者を公共工事入札等で冷遇するというY1の意向が反映されたものである。」との認定を前提とした上で、
「本件指名回避は、Xの主管課である契約検査課等が作成しる指名業者推薦書の原案を指名委員会等に提出する前に行なわれる委員長又は委員長代理による事前協議の際に、Y2ないしY4が、契約検査課等が策壊死汁指名業者推薦書の原案を指名委員会等に提出する前に行なわれる委員長又は委員長代理による事前協議の際に、Y2ないしY4が、契約検査課等の課長に対し、指名業者推薦書の推薦業者名にAらを記載しないように働きかけることにより行なわれた」との事実を認定し、
本件指名回避に関するY2ないしY4の具体的行為を認定し、
更に、Y1の故意重過失に関しては、推認に基づき、「一貫した強固な明示又は黙示の指示」を認定

●民事訴訟における事実認定:
裁判官(裁判体)の自由な心証に基づいて行われるが、ある法律効果を発生させるのに必要十分な要件事実は、法律上の推定規定によって証明責任が転換されない限り、法律効果を求める側が証明責任を負い、
要証事実に関する証明の程度は裁判官の確信を抱かせる程度に達することが必要。
要件事実に該当する具体的事実は、裁判官の自由心証に基づきながらも、厳格に認定されることが必要である。
but
要件事実に該当する具体的事実が直接的に認定できない場合であっても、証明責任を負う当事者の過剰な負担による不衡平を回避する手段として、
裁判官の自由心証形成の範疇に含まれる経験則の適用としての「事実上の推定」や「一応の推定」などと呼ばれる認定手法を用いることが判例実務上認められる。
医療過誤訴訟や公害訴訟、行政訴訟等、原告にとって立証のための資料の入手が困難な訴訟の分野⇒証明責任を負う当事者の証明責任自体を軽減する法理として、
「証明責任の分担」、「証明度の軽減」、「立証軽減の法理」、「証明責任の転換」
but
議論は錯綜。

●本判決:
Xの指名競争入札においてAらが指名業者推薦書から削除されて違法な本件指名回避が実行されるに至った経緯を詳細に認定。
その実行は、指名業者推薦書原案を作成する「契約検査課等の職員ではなく、Y2ないしY4であると解するほうが自然である」と認定⇒違法行為の実行者を特定。
Y1の故意重過失に関しては、「一貫した強固な明示又は黙示の指示があったと推認する方が自然である」との判断。

一審判決における「管財課の職員が、Y1の意向を忖度して、勝手に本件指名回避を行なった可能性」もあるとする認定上の疑念を否定。

本判決においける「自然な認定」「自然な推認」が如何なる認定手法を表現したものかは必ずしも明確にはなされていない
but
裁判官の自由心証形成の範疇に含まれる経験則の適用としての「事実上の推定」や「一応の推定」などと呼ばれる認定手法に属するものであると解するのが相当、

●本件は、地方公共団体自身が積極的に国賠法1条2項に基づく求償権を行使し、これが高裁におい認容され、最高裁でも維持された1事例。

判例時報2478

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2021年7月 2日 (金)

障害者差別解消法と教育現場における合理的な配慮のあり方が問題となった事案

名古屋地裁R2.8.19

<事案>
気管カニューレ等を挿管しているX1(判決時中1)並びにその両親であるX2及びX3が、
(1)X1が教育を受けるためには喀痰吸引器具が必要であり、Y(地方公共団体)には障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(「障害者差別解消法」)7条2項にいう合理的な配慮として、X1のために喀痰吸引器具を取得し、これを保管するなどの義務がある

行訴法4条後段の当事者訴訟として、障害者差別解消法7条2項に基づき、喀痰吸引器具の取得及び保管等を請求するとともに(争点①)
(2)X1がA小学校に在学中
ア:B町教育委員会がX1の登校の条件として、喀痰吸引器具の準備及びその費用をX2ないしX3の負担とするとともに、父母にX1の登校日に喀痰吸引器具等を持参するよう義務付けたこと(争点②)
イ:A小学校の校長らが、X2の校外学習に父母の付添いを求めたこと(争点③)
ウ:A小学校の校長らが、X1が父母の付添いなく地域の通学団に参加することができるよう、通学団の児童の保護者に適切な働きかけをしなかったこと(争点④)
エ:A小学校の校長らが、X1を水泳の受業に参加させず、又は水泳の授業に高学年用プールを使用しなかったこと(争点5)が
いずれも国賠法上違法
⇒Yに対し、それぞれ、損害賠償金(慰謝料等)110万円及び遅延損害金の支払を求める事案。

<判断>
●争点①
障害者差別解消法7条2項は、個々の障害者に対して合理的な配慮を求める請求権を付与する趣旨の規定ではないXらが、Yに対し、同項に基づいて喀痰吸引器具の取得及び保管等を請求することはできない。

●争点②
町教委がX1の登校の条件として喀痰吸引器具の取得並びに父母による同器具及び連絡票の持参を義務付けたことは、次の①~③などの事情の元においては、障害者差別解消法7条等に違反するものではなく、町教委の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。




●争点③
A小学校の校長らが、X1の校外学習に父母の付添を求めたことは、次の①~③などの事情に下においては、障害者差別解消法7条に違反するものではなく、校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。




●争点④
A小学校の校長らにおいてX1が父母の付添いなく地域の通学団に参加することができるような働き掛けをしなかったことは、次の①②などの事情の下においては、通学団の児童の保護者がX1が通学団に参加する際に父母の付添いを求めるなどしたことには正当な理由がないとはいえない⇒国賠法上違法であるとはいえない。



● 争点⑤
A小学校の校長らが、X1を1年次から3年次まで水泳の授業に参加させず、4年次の当初からX1の受業に高学年用プールを使用しなかったことは、次の①②などの事情の下においては、障害者差別解消法7条等に違反するものではなく、校長らの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない⇒国賠法上違法であるとはいえない。



<解説>
障害者差別解消法が平成28年4月1日に施行され、同法7条により、行政機関等において障害者に対する合理的な配慮を行うこと及び不当な差別的取扱いを行なわないことが法的義務として明確に位置付けられた。
but
教育現場における合理的な配慮の在り方等が正面から争点となった民事訴訟はこれまであまり見当たらない。

本件の事実関係に即した判断が示されているにとどまり、特に合理的な配慮ないし不当な差別的取扱いに関する一般的な規範が定立されているわけではない。

判例時報2478

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2021年7月 1日 (木)

長女を包丁で突き刺した行為について、原審殺人未遂⇒控訴審で心身喪失で無罪

広島高裁R2.9.1

<原審>
殺意をもって本件刺突行為に及んだとする被告人の捜査段階の供述の信用性に疑いを入れる余地はない⇒作為体験の存在を否定。
行為当時に作為体験が出現していたとする精神鑑定は前提条件を異にするものであって採用できない。

完全責任能力状態での殺人未遂
懲役2年6月(執行猶予4年)

<判断>
公判前整理手続の経過⇒本件の実質的争点は行為当時に作為体験が出現していたかどうか。
この点が(裁判員法)50条鑑定の鑑定事項において検討されるべき主題となっていたことは明らか。

● 行為当時の主観面(作為体験の存否)について、捜査段階と起訴後とで供述に変遷があり、鑑定にあたり、その信用性をどう評価するかは、事実認定における証拠評価と実質的に共通する作業。
but
その場合、鑑定人としては、対象者が精神症状があったかのように装う供述をする可能性が在ることも考慮し、一件資料のほか、鑑定面接、諸検査等により得られた幅広い情報を基礎にし、専門的知見に基づき、対象者の供述する内心等の状態が精神症状の現れと見て精神医学的に矛盾はないか等の観点から供述の信用性を慎重に吟味する必要があり、その検討作業は正に鑑定の本分に属することである。
その際に、鑑定人が検討の基礎に置くべき資料を考慮せず、供述の信用性評価の前提となる事実関係の認識に誤りがあったというようなj場合には、鑑定の合理性が否定されることはあり得るが、そのような事情がなく、判断過程に不合理な点がない限り、鑑定は基本的に尊重されるべきもの。
本件の精神鑑定の判断過程に不合理な点は見当たらない。
・・・・行為時に作為体験があったとする精神鑑定及び起訴後の供述の信用性を排斥できない。

<解説>
責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について、精神医学者の鑑定意見等が証拠となっている場合における裁判所の判断の在り方:最高裁H20.4.25:
生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば、専門家たる精神医学者の違憲が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正や能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきものというべきである。

「その意見を十分に尊重して認定すべき」事項の範囲については、
①被告人の精神障害の有無・内容
②精神障害が犯行に与えた影響の有無・程度、影響の仕方(機序)
とされている。

判例時報2477

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