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2021年6月 2日 (水)

生活扶助基準の改定と生活保護法違反(否定)

名古屋地裁R2.6.25

<事案>
生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けているXらが、生活保護法による保護の基準における生活扶助の基準を改定する厚生労働省告示ないし同告示に引き続いて保護基準における生活扶助基準を改定する厚生労働省告示により生活扶助基準が改定⇒各処分行政庁から各保護変更決定処分を受け、基準額を減額される

本件各処分は、生活扶助を健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足りない水準とするものであるなどの理由から違法であるとして、
本件各処分の取消しを求めるとともに、
本件各処分の根拠となった本件各告示による生活扶助基準の改定が国賠法上違法であるとして、国に対し、損害賠償金等の支払を求めた

<争点>
本件各告示による生活扶助基準の改定が生活保護法3条又は8条に違反するか否か。

<判断>
● ゆがみ調整及びデフレ調整を内容とする生活扶助基準の改定は、
(1)厚生労働大臣の判断に、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合、あるいは、
(2)生活扶助基準の改定に際し激変緩和等の措置を執るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に被保護者の生活への影響の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、
生活保護法3条及び8条2項に違反し、違法となるものというべき。

●ゆがみ調整について
Xら:
ア:ゆがみ調整が、第Ⅰー10分位という非常に所得の低い世帯を比較対象として行なわれた点、
イ:増額方向の調整について、規準部会が示した調整幅の2分の1の限度でしか行なわれなかった点
を問題とした。

アの点について:
(1)の観点(判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点)から検討し、
生活扶助基準における展開部分と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を検証するとの目的

比較対象となる一般低所得世帯は、最低限度の生活水準になる世帯とをすることが合理的。
・・・基準部会の検証において比較対象が第Ⅰー10分位の世帯とされたことが不合理とはいえない。

イの点について:
(2)の観点(被保護者の生活への影響の観点)から検討し、
①基準部会において、検証結果をそのまま生活扶助基準に反映させた場合には子どものいる世帯について大幅な減額となることが指摘されたことに加え、
②基準部会の検証結果を部分的に生活扶助基準に反映させる場合には、ゆがみ調整による影響の内容・程度にかかわらず一定の割合でこれを反映させることがゆがみ調整の目的に沿うことを指摘した上で、
合理的な措置。

●デフレ調整について
Xら:
ア:デフレ調整の必要性自体について争うほか、
イ:専門家による検証を欠く点、
ウ:平成22年の指標を100とし、同年のウエイトを参照した点、
エ:家計調査を用いることで、生活保護受給生体ではなく一般世帯のウエイトを参照した点
を問題とした。

いずれの違法事由についても(1)の観点(判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点)から検討し、
アの点:
平成19年当時、生活扶助基準を引き下げる必要があり
平成20年以降、物価が下落する状況が継続
⇒生活扶助基準額が実質的に増加したと評価し得る状況が生じていた⇒デフレ調整を行う必要があると判断が不合理とはいえない。
イの点:
厚生労働大臣が生活扶助基準を改定するに当たっては社会保障審議会等の専門家の検討を経ることが通例
but
そのような検討を経ることは法令上要求されていない
⇒専門家による検証がされていないことをもって、直ちに違法とはいえない。
ウ:・・・・不合理とはいえない。
エ:・・・・著しく不合理とはいえない。

<解説>
● 生活保護に係る老齢加算の廃止に関する最高裁H24.2.28:
本判決も依拠した判断過程審査の枠組み採られた。

本判決は、加算の廃止などとは異なる態様の保護基準の改定についても、同様の判断過程審査を用いるべきことを示した。

● 判断過程審査

厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たって検討した具体的な過程に沿って裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無を判断⇒場合によっては、計算過程の相当細かな部分にも立ち入った審査を行なう必要。
but
これは審査の対象事項の問題であり、
その事項に関してどの程度幅広い裁量が認められるかは別論。

多方面にわたる複雑多様で高度に専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断が必要とされること等⇒広汎な裁量を前提に、厚生労働大臣の判断に明らかに不合理な点があったか否かという観点からの審査がされるのが一般的。

上記最高裁判決の調査官解説:
行政庁側の論証過程の追試的な検証を離れて、多種多様な相対立する利益の中から法の裏付けのないまま優先させるべき利益を自ら選びだすような思考を採ることは、判断過程審査として適切性を欠く。

判例時報2474

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