控訴審で自白調書の信用性を否定⇒危険運転致死罪(一審)から過失運転致死罪(控訴審)へ
大阪高裁R2.7.3
<事案>
被告人が、自動車を運転して交差点入口の停止線から約31.5メートルの地点で進行方向の対面信号機が赤色であることを確認し、直ちに制動措置を講ずれば停止線手前で停止できたにもかかわらず、殊更に無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約35~38kmで運転し、横断歩道上を進行してきた被害者運転の自転車に衝突させ、被害者を路上に転倒させて脳挫傷の傷害を負わせて死亡させた。
<争点>
被告人が赤信号を殊更無視したか否か
~直接的な証拠は被告人の捜査段階の自白のみ
<原審>
裁判員裁判
自白の任意性と信用性が争われ、任意性判断に関しては公判前整理手続の段階で捜査官の証人尋問等⇒裁判官3名の合議体により任意性が肯定。
⇒
公判では被告人調書3通(警察官調書2通、検察官調書1通)の信用性が問題。
被告人の取り調べの経過が重点的に検討され「被告人調書は被告人の自発的な供述を録取したものと認められる⇒被告人調書の信用性も認められる」
<判断>
● 被告人の走行状況と自白調書の内容を比較検討⇒自白調書の内容には重要な部分で不合理又は少なくとも不自然な点が存在し、自白調書の作成経緯を検討しても、その内容的な不合理さや不自然さを解消できるほど信用性を担保する事情はなく、かえって被告人の捜査官に対する迎合的な傾向がうかがえる。
⇒
一審判決には論理則、経験則に照らして不合理で是認できない誤りがある。
● 被告人は本件事故直後に現行犯逮捕され、翌々日に釈放され(勾留されず)、以後、在宅で捜査を受けた。
危険運転致死罪で起訴されたのは本件事故から9か月以上経過した後。
起訴後に至って私選弁護人を選任。
自白調書3通を含む一連の捜査供述は、弁護人が選任されていない状況でされたもの。
当初は過失運転致傷(致死)の容疑で捜査がされ、途中で危険運転致死の容疑に変更。
自白調書3通は危険運転致死罪を被疑事実として作成されているが、そのうち警察官調書2通については、供述を録取した際の録音・録画がされていない。
①危険運転致死罪という重大事件として基礎がされるまでの捜査の全過程を通じ、弁護人が選任されていない
②被告人の安定しない供述経過や供述内容には、被告人にうかがわれる投げやりな気持ちに基づく迎合的な供述傾向の影響があり、
③自白調書の信用性判断においても、このことが大きく影を落とすることは避けられない。
<解説>
裁判員裁判における自白の証拠能力(任意性)の審理:
①公判前整理手続で自白の証拠能力の事実の取調べを行い、採否を決する
②公判において構成裁判官だけで審理し判断(裁判員法6条3項後段、54条2項、68条1項)
③公判で裁判員の立ち合いを許して審理し、裁判員の意見を聴取して判断(裁判員法60条、68条3項)
の3つが考えられる。
①過失運転致死の訴因も原審段階で予備的訴因として掲げられている
②原審で取り調べた証拠により直ちに判決できる
③執行猶予が見込まれる
⇒
差し戻すことなく自判(刑訴法400条)。
判例時報2476
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