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2021年5月13日 (木)

市立中学校の柔道部顧問である教諭に対する停職6月の懲戒処分の違法性が争われた事案

最高裁R2.7.6

<事案>
市立中学の教諭(X)は、同校柔道部の顧問を務めていたが、
部員間で生じた暴力行為を伴ういじめの事実を把握しながら、受傷した被害生徒に対し、受診に際して医師に自招事故による旨の虚偽の説明をするよう指示したこと、
Ⅱ当該いじめの加害生徒を柔道の大会に出場させることを禁止する旨の校長の職務命令に従わず同生徒を出場させたこと、及び
柔道部のために卒業生等から寄贈され校内に設置されていた物品につき、校長からの繰り返しの撤去指示に長期間応じなかったこと
を理由として、
兵庫県教育委員会から定職6月の懲戒処分を受けた。

Xが、本件処分は重きに失するなどと主張して、Y(兵庫県)を相手に、その取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案。

<原審>
①本件非違行為Ⅰにより被害生徒が適切な治療を受けられなかったという事情は認められず、これにより本件中学校としての組織的対応に支障を来す結果ももたらされなかった⇒その悪質性の程度はそれほど高いとはいい難い。
➁本件非違行為ⅡⅢについては、校長の対応にも問題がある

Xにも酌むべき事情がある。
本件処分の量定を決めた方法も合理的とはいい難い。

Xに対する処分として停職を選択すること自体、裁量権の範囲を逸脱⇒本件処分の取消請求を認容するとともに、国賠請求を55万円の限度で認容。

<判断>
本件非違行為Ⅰは、被害生徒の心情への配慮を欠くものであって、いじめを受けている生徒の心配や不安、苦痛を取り除くことを最優先として適切かつ迅速に対処すること等を求めるいじめ防止対策推進法や兵庫県いじめ防止基本方針等に反するほか、
重い傷害を負った被害生徒に対し誤った診断や不適切な治療を行われるおそれを生じさせるもの
一連の各非違行為はその経緯や態様等において強い非難に値する
③原判決がXのために酌むべき事情として指摘する点は、必ずしもそのように評価できるものではなく、これを殊更に重視することは相当でない。
一連の各非違行為の非違の程度等を踏まえると、停職6月という量定を選択したことが裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえない

原判決を破棄し、Xの控訴を棄却

<解説>
公務員に懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選ぶべきかを決定することは、懲戒権者の裁量に任されておりその判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り違法となる。
懲戒権者の裁量判断の適否に関する司法審査の方法については、裁判所が懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではない⇒いわゆる判断代置型の判断は許されない。

判例時報2472

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