裁判官のフェイスブックでの投稿⇒戒告処分の事例
最高裁R2.8.26
<事案>
裁判官である被申立人が、フェイスブック上の自己のアカウントにおいて、強盗殺人及び強盗強姦未遂事件の被害者遺族から訴追請求を受けていることに言及する投稿をした際、本件遺族が被申立人を非難するよう東京高裁事務局及び毎日新聞に洗脳されている旨の表現を用いて本件遺族を侮辱⇒裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとして、裁判官分限法に基づき懲戒申立てがされた事案。
<解説>
裁判官は「職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り」又は「品位を辱める行状がったとき」に裁判により懲戒されるものとされている(裁判所法49条)。
最高裁H30.10.17:
「品位を辱める行状」の意義について、
「職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、および裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判所の公正を疑わせるような言動をいう」と判示。
⇒
被申立人の本件投稿をした行為が「裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動」として「品位を辱める行状」に当たるか否かが問題。
<判断・解説>
●被申立人は、
裁判官であることが他者から認識することができる状態で、
自己の実名が付されたツイッターアカウントにおいて、
本件刑事事件の判決を閲覧することができる裁判所ウェブサイトのURLと共に、
「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」
などといった短文を掲載する投稿(「前回投稿」)を行ない、
本件遺族から、被害者の尊厳に対する配慮が全くなく、本件刑事事件を軽視し茶化していると感じさせる書き込みであるとして抗議等がされていた。
このような経緯の下で、被申立人は、本件遺族について、
本件刑事判決を裁判所ウェブサイトに掲載した東京高裁を非難するのではなく、リンクを貼った被申立人を非難するようにと東京高裁事務局に洗脳されてしまい、いまだにそれを続けている旨の本件投稿をした。
●前回投稿について:
①本件刑事事件に含まれる論点に言及していない
②被告人の異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現で本件刑事事件を紹介するもの
⇒
刑法上の重要論点を含む本件刑事判決を法律家に周知するためのものとみることはできず、閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて、興味本位で本件刑事判決を閲覧するよう誘導しようとするものというほかない。
~
前回投稿を目にした者によってそれがどのように受け止められるものであるかについて客観的な評価を示したもの。
「我が子が性犯罪の被害に遭って殺害され、甚大な精神的苦痛を受けている遺族において、事件が好奇の目にさらされて被害者の尊厳がこれ以上傷つけられることのないよう願うのが当然」
「本件遺族は、裁判官である被申立人によって前回投稿がされたことについて被害者の尊厳や遺族の心情に対する配慮を欠くものであるとして抗議等をするに至った」
~
本決定は、前回投稿の問題点を指摘しているが、前回投稿をした行為そのものを懲戒の対象としたものでないことは判文上明らか。
●本家投稿の表現は、「あたかも本件遺族が自ら判断する能力がなく、東京高裁事務局等の思惑どおりに不合理な非難を続けている人物であるかのような印象を与える侮辱的なもの」
⇒
被申立人の行為は、
「被申立人による前回投稿によって心情を害されて抗議等をするに至った本件遺族の心情を更に傷つけるものであり、犯罪被害者遺族の副次的な被害を拡大させるものである」
「副次的な被害」:
犯罪等による直接的な被害の後、様々な場面で犯罪被害者又はその遺族がその権利利益や平穏な生活を害されることを指すもの(犯罪被害者等基本法前文参照)
被申立人が自ら裁判官であることを示しつつ多数の者に向けて本件投稿をした行為は、犯罪被害者やその遺族の心情を理解し、配慮することのできない裁判官ではないかとの疑念を広く抱かせるに足りるものであり、
「裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動」であるとして「品位を辱める行状」に当たると判断。
●被申立人:本件遺族による抗議や訴追請求に対する自らの見解を表明するための表現行為として本件投稿をした
vs.
そうであるとしても、本件遺族を侮辱するような上記表現を用いることが許されるものではない。
~
本決定は被申立人が本件遺族からの抗議や訴追請求に対して自らの見解を表明したこと自体を懲戒事由としたものではなく、侮辱的な表現を用いたことを懲戒事由としたもの。
判例時報2472
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