第1種少年院送致の決定が抗告審で取り消された事例
東京高裁R2.4.3
<事案>
少年が
①共犯少年と共謀の上、スーパーの文房具売場において、シャープペンシル3本ほか115点を窃盗し、
②図書館において、同館のタブレット端末1台を摂取し、
③放置された盗難自転車1台を自己が使用する目的で持ち去り、
④コンビニエンスストアで、同店の現金10万円を窃取
<原審>
社会内処遇による更生は困難かつ不相当。
<判断>
原決定を取り消した。
①本件各非行は、基本的には窃盗の範疇に限定されており、非行の広がりは見られない
②少年には怠学傾向はなく、深夜はいかいによる補導歴は1回であること
③これらの事情は、非行性の程度を検討する上で、十分踏まえる必要があること、
④これまで事件が家裁に係属したこともなかったのであって、調査・審判の過程における保護的措置や、保護観察における指導・監督を受けたにもかかわらず、非行を繰り返していたわけではない⇒直ちに施設内における矯正教育が必要であるといえるほど、少年の非行性が深化しているとはいえない
⑤ADHDの存在は、あくまで可能性レベルの指摘にとどまるとされているが、原決定では、そういった点も踏まえた考察はされていない
⑥仮に、ADHDが本件各非行に何らかの影響を与えているとしても、少年に対して、医療的措置を含む適切な指導等がされてこなかったという事情がある⇒少年の資質上の問題性が大きく、これが本件各非行に直接的に現れているとすることには疑問がある
⑦親子関係を巡る状況が変化しており、この点は、処遇選択をする上で看過することができず、
⑧少年は高校への復学が可能⇒社会的資源の存在も認められる
⇒
少年の非行性や問題性に関する原決定の評価には誤りがあり、試験観察に付することを含め、社会内処遇の可能性を十分に検討することなく、少年を第1種少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当。
<解説>
保護処分決定をする際、
その種類は、
非行事実及び要保護性の程度、内容によって選択。
原決定と本決定で結論を異にした分岐点が、
非行性の深化の程度に対する評価。
非行事実について、少年の非行が窃盗から恐喝、強盗等罪質そのものが重大な犯罪へと拡大しているといった事情はみられない。
窃盗や占有離脱物横領の非行を重ねているからといって、少年の非行性が相当程度進んでいるという原決定の評価が合理的であるとは直ちにいえない。
少年の資質上の問題:
原決定:知的能力の制約やADHDの問題が根深いことを重視
vs.
①ADHDの存在を指摘する少年鑑別所での精神科の受診結果は、あくまで可能性レベルの指摘にとどまる上、必要な考察がなされていない⇒ADHDと少年の非行性の結び付きの程度等は明らかになっていない。
②仮に、少年がADHDであると確定的に判断され、これが本件各非行に何らかの影響を与えているとしても、少年に対して、そのようんば特性を踏まえた、医療的措置を含む適切な指導等がされてこなかったという点については、原決定は説示していない。
~
原決定には審理不尽ともいうべき問題点があった。
学校や保護者という保護環境等について、十分に考慮する必要があった。
殺人、強盗、放火等の重い罪名の非行でない限り、段階的処遇の観点を重視して処遇選択すべきであって、特に少年院送致の場合などに段階的処遇の観点によらない場合には、相応の合理的理由が必要とされると言われている。
判例時報2473
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