公判前整理手続きでの、裁判所による訴訟手続きの違法
東京高裁R1.12.6
<事案>
被告人が、高速道路上で被害者車両に著しく接近するなどのあおり運転を繰り返して同車両を停止させ、その約1分58秒後に後続の大型貨物自動車が被害者料の後部に衝突した結果、同車両の乗員2名を死亡させ、その子2名に傷害を負わせて危険運転致死傷罪等に問われた事案。
<争点>
①被害車両の直前で自車を停止させた行為が「重大な交通の危険を生じさせる速度」を要件とする同罪の実行行為に該当するか
②前記停止行為より前のあおり運転と被害者らの死傷結果との間の因果関係の有無
<原審>
本件因果関係を否定し危険運転致死傷罪が成立しないとの見解を示した書面を公判前整理手続で訴訟当事者に示した
but
裁判員裁判による公判審理及び評議を経ると前記見解を変更し、原判決で前記因果関係を肯定して危険運転致死傷罪の成立を認め、被告人を懲役18年に処した。
<弁護人>
因果関係を認めた原判決の法令の適用の誤りや、
公判前整理手続で予め表明した前記見解の変更を一切当事者に告げず原判決で因果関係を肯定した原裁判所が、不意打ちを与え防御の機会を失わせてとして、訴訟手続の法令違反を主張。
<判断>
公判前整理手続段階で因果関係を否定した原裁判所の見解は、具体的な事実関係を前提とする法令の適用⇒構成裁判官(裁判員の参加する合議体を構成する裁判官)及び裁判員の合議によって判断すべき事項について、構成裁判官のみの合議により断定的かつ明示的に示した見解⇒裁判員法の規定に反する越権行為である上、訴訟当事者のその後の訴訟追行に事実上の影響を及ぼすもの。
原裁判所が見解の変更を前提とした訴訟手続き上の手当てを講じることなく、見解を変更して有罪判決を宣告したことは被告人及び原審弁護人に対する不意打ちとなる
⇒
原判決を破棄し原裁判所に差し戻した。
<解説>
●裁判員法6条:
事実の認定、法令の適用及び刑の量定は構成裁判官及び裁判員の合議により(同条1項) 、
法令の解釈等については構成裁判官の合議による(同条2項)。
本判決:
本件因果関係の有無は本件の具体的な事実関係を前提として初めて判断が可能なものと考えた。
●公判前整理手続において、当事者の主張や証拠を整理していく過程で、検察官に訴因変更を促し、あるいは訴訟当事者に主張の追加、撤回または変更を促すなどする必要性
⇒
その前提として、法令解釈や事実認定上の問題点について、裁判所が暫定的に一定の見解を示すことが直ちに違法となるものではなく、争点や証拠の整理に資する有益な訴訟指揮となることもあり得る。
●本判決:
訴訟手続の法令違反を理由に原判決を破棄。
but
原審で争われた法令適用の誤りについても一定の見解を示している。
~
原判決破棄の理由とはされていない⇒傍論的に判断を示したもの⇒差戻を受けた原裁判所の判断を拘束するものではない。
法令の適用の誤りは訴訟手続が適法に行われ、かつそのような適法な訴訟手続の下における事実認定に誤りのないことを論理的前提としている。
⇒訴訟手続の法令違反の主張は法令適用の誤りの主張の論理的に先行する。
判例時報2470
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