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2021年5月 8日 (土)

性同一性障害の労働者の化粧⇒就労拒否⇒使用者の責めに帰すべき労務提供の不能

大阪地裁R2.7.20

<事案>
タクシー乗務員であるXが、雇用主であるYによる不当な就労拒否があった⇒民法536条2項により、不就労期間について、賃金支払いの仮処分を求めた。
Xは、生物学的性別は男性であるが、性自認が女性で、医師により性同一性障害の診断を受けている。
Xは、顔に化粧を施して乗務を行なっていた。

<争点>
生物学的男性であるXが化粧を施した上で業務を行うことをもって、YがXの就労を拒否した場合に、Xの就労が「債権者(本決定における債務者Y)の責めに帰すべき事由」によって不能となったか否か。

<判断>
YがXの就労を拒否したことを前提として、就労拒否が「債権者(本件ではY)の責めに帰すべき事由」によるものであると判断。

Yの就業規則には、従業員が、その身だしなみを、乗客に対して不快感や違和感を与えるものとしてはならない旨の規定がある。
その規定目的自体は正当性を是認できる
but
従業員の身だしなみに対する制約は、業務上の必要性に基づく、合理的な内容の限度に止めなければならない。

Yは、男性であるXが化粧して乗務すること自体を禁止していたものと認められるところ、
他方で、女性乗務員に対しては化粧を施すことを認めていた

化粧につき、生物学的な性別に基づいて異なる取扱いをした
⇒上記の必要性や合理性の存否は慎重に検討される必要がある。

男性に対してのみ化粧を禁止することは、一般論として、必要性や合理性が否定されるものではない。
but
性同一性障害を抱える者にとっては、外見を性自認条の性別に近づけることが「自然かつ当然の欲求」であって、性自認が女性であるXに対しては、女性乗務員と同等に化粧を施すことを認める必要がある。
Xに対して化粧を施すことを認めることによって、Yに経済的損失等が生じるとも限らない

Xに対して化粧して乗務すること自体を禁止することは、上記の必要性も合理性も認められない。

<解説>
関連裁判例:
人事考課において、原告らがひげを生やしていたことを主要な考慮事情として低評価としたことを国賠法上違法と判断した例
トランスジェンダーである原告に対する、女性用トイレの使用制限が国賠法上違法と判断された例
性同一性障害による性別変更を理由にゴルフクラブへの入会を拒否したことが違法であると判断した事例

2020年6月15日に出された米国連邦最高裁判所判決において、
同性愛やトランスジェンダーであることを理由とする取扱いの差異が、法の禁止する性別に基づく差別であると判断。

本決定:
男性のみ化粧を禁止することを一般論として許容しながら、
性同一性障害を抱える者の臨床的特徴に照らしつつ、生物学上の性別と性自認とが一致する人格との比較の視点から、生物学上男性でありながら性自認が女性である人格についてまで、一律に男性に分類し、化粧を禁止することにひついては必要性も合理性もなく、
Xに女性乗務員と同等の化粧を施すことを認める必要があると判断

判例時報2471

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