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2021年5月 4日 (火)

大阪府泉佐野市のふるさと納税の問題

最高裁R2.6.30

<事案>
Y(総務大臣)が、大阪府泉佐野市につき、いわゆるふるさと納税を受け入れる地方団体としての指定をしない旨の決定(「本件不指定」)をした⇒X(泉佐野市長)が、本件不指定は違法は国の関与に当たると主張して、地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に、本件不指定の取消しを求めた。

<事実の概要>
ふるさと納税制度:
個人住民税の納税義務者の地方団体に対する寄付金のうち一定額を超える額について、所得税の所得控除及び10%相当額の個人住民税の税額控除に加えて、個人住民税の税額控除の金額に所定の上限額の範囲内で特例控除額の加算(「特別控除」)をするという制度。

前記上限額の範囲内であれば、寄付金のうち前記一定額を超える部分の全額が、所得税及び個人住民税から控除される。
地方団体が寄付金の受領に伴い提供する物品、役務等(「返礼品」)について特に定める法令上の規制なし⇒返礼品提供競争の過熱⇒総務大臣は、平成29年及び同30年、地方団体に対する地自法245条の4第1項の技術的な助言として、返礼品について返戻割合を3割以下とすること及び地場産品に限ることを求めたが、複数の地方団体は従わず。

平成31年法律第2号(平成31年3月27日成立)による地税法の一部改正
⇒特例控除の対象となる寄付金について、所定の基準に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対するものに限られるという制度(「本件指定制度」)導入。
同導入等を内容とする地税法37条の2及び314条の7の改正規定は、令和1年6月1日から施行。
地税法37条の2は、指定の基準として、「寄付金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準」に適合すること及び返礼品等を提供する場合には返戻割合が3割以下かつ地場産品であることを規定。

総務大臣は、平成31年4月1日、
地税法37条の2第2項に基づき、募集適正基準等を定める告示を発し、
2条3号は、募集適正基準の1つとして、平成30年11月1日から指定の申出書を提出する日までの間に、ふるさと納税制度の趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の寄附金を受領した地方団体でないことと定めていた。
・・・・Yは、泉佐野市について、
①申し出書及び添付資料の内容が指定の基準に適合していることを証するとは認められないこと(不指定理由①)
②本件告示2条3号に該当しないこと(不指定理由②)
③法定返礼品基準に適合するとは認められないこと(不指定基準③)
を理由に、本件不指定。

Xは、本件不指定に不服があるとして、地自法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し、審査の申出

同委員会は、同法250条の14第1項に基づき、Yに対して、不指定理由①及び②は不指定の根拠とならず、不指定理由③については更に検討を要する状況にあるとして、本件指定申出について再度の検討を行うことを勧告

Yは、Xに対し、再度の検討を行った結果、
不指定理由①については独立した理由として扱わず
不指定理由②及び③については判断を維持

Xは、このYの措置に不服があるとして、地自法251条の5第1項2号に基づき、本件訴えを提起。

<争点>
本件告示2条3号の規定の適法性
特に、同号が保険改正規定の施行前の期間における寄附金の募集及び受領を指定の基準として定める⇒地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものか?

<判断>
本件告示2条3号の規定のうち本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、
地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効。
不指定理由②を不指定の理由とすることはできない
不指定理由③を不指定の理由とすることもできない

不指定理由②③を理由とする本件不指定は違法であり、原判決を破棄し、本件不指定を取り消す旨の自判。

<解説>
●本件告示の法的性質等
行政機関が法条の形式をもって定めを置く場合、
当該定めは、
①法規命令(行政主体と国民の関係の権利・義務に関する一般的規律を定めるもの)と
②行政規則(行政機関相互を拘束するが、国民の権利・義務に直接関係しないもの)
とに分類され、このうち法規命令の策定には法律の授権(委任)が必要であるとされている。
but
①地税法37条2項は、指定の基準のうち募集適正基準の策定を総務大臣に委ねており、同大臣は、この委任に基づいて、募集適正基準の1つとして本件告示2条3号を定めたもの。
②地自法245条の2は、いわゆる関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるもの⇒関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要する。

本判決:
本件告示2条3号の規定が地自法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しない⇒その委任の範囲が問題。

●委任の範囲に関する判断枠組み
委任命令が委任をした法律(授権法)の委任の範囲を逸脱するものか否かが問題となった最高裁判決においては、その判断要素として、
①授権規定の文理
②授権法が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等
が考慮されており、
必要に応じて授権規定の立法過程における議論等も検討の対象とされている。

これらの諸要素を総合的に考慮した結果、当該委任命令の規定が授権法の委任の範囲を逸脱
⇒当該規定は違法であり無効。

●本件告示2条3号の適否
これまでに授権法の委任の範囲を比較的厳格に解した最高裁判決は、
国民の憲法上の権利等を制約する委任命令に係るもの。

本件告示によって直接制約されるのは地方団体の地位ないし利益
but
本判決:
本件告示2条3号につき、
本件改正規定の施行前における募集実績事態を理由に指定を受けられないこととする趣旨のものであり、
実質的には総務大臣による地自法245条の4第1項の技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取り扱いを定める側面がある

普通地方公共団体が国の行政機関が行なった助言等に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを禁止する同法247条3項の趣旨も考慮すると、
本件告示2条3号が地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、前記趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要する。

授権法の法文の文理を検討し
募集適正基準とは、指定対象期間における寄附金の募集の態様に係る基準と解するのが自然であって、本件改正規定の施行前における募集実績自体をもって指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定していると解するのは困難

委任の趣旨について検討し、
地税法が募集適正基準等の内容の策定を総務大臣に委ねた趣旨(同大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当であること、柔軟性を確保する必要があること)が、本件告示2条3号のような内容の基準の策定についてまで妥当するとはいえない。
本件改正規定に係る法律案の作成の経緯及び国会における審議の過程を検討し、
同法律案につき、国会において、募集適正基準が本件改正規定の施行前における適格性を欠くものとする趣旨を含むことが明確にされた上で審議され、その前提において可決されたものということはできない。

本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効。
⇒不指定理由②を不指定の理由とすることはできない。

●不指定理由③の適否

判例時報2471

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