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2021年5月24日 (月)

経過観察と被爆者援護法10条1項の「現に医療を要する状態にある」

最高裁R2.2.25

<事案>
原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(「被爆者援護法」)1条に規定する被爆者である原告らが、被爆者援護法11条1項に基づく認定の申請⇒処分行政庁からこれを却下する処分⇒その取消しと国家賠償を求めた。
上告審では、経過観察を受けている原告らが被爆者援護法10条1項にいう「現に医療を要する状態にある」と認められるか否かが問題。

<判断>
経過観察を受けている被爆者が被爆者援護法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるためには、当該経過観察自体が治療行為を目的とする現実的な必要性に基づいて行われているといえること、すなわち、経過観察の対象とされている疾病が、類型的に悪化又は再発のおそれが高くその悪化又は再発の状況に応じて的確に治療行為をする必要があることから当該経過観察が行なわれているなど、経過観察自体が、当該疾病を治療するために必要不可欠な行為であり、かつ、積極的治療行為(治療適応時期を見極めるためにの行為や疾病に対する一般的な予防行為を超える治療行為)の一環と評価できる特別の事情があることを要する」とした上で、
そのような特別の事情があるといえるか否かは
「経過観察の対象とされている疾病の悪化又は再発の医学的蓋然性の程度や悪化又は再発による結果の重大性、経過観察の目的、頻度及び態様、医師の指示内容その他の医学的にみて当該経過観察を必要とすべき事情を総合考慮して、個別具体的に判断すべきである」

①事件について:
次の(a)~(d)など判示の事情の下においては、被爆者援護法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるとはいえない。
(a)慢性甲状腺炎が続発症である甲状腺機能低下症に至る割合は全体の10%に満たないとされている上、これに至ったとしても、直ちに重篤な結果が生ずることが一般的であるとまではうかがわれない
(b)当該被爆者につき甲状腺機能低下症の診断における有力な検査所見で異常値が示されることはなく、その状態が慢性甲状腺炎の診断から被爆者援護法11条1項に基づく認定の申請までの約16年継続していた。
(c)慢性甲状腺炎については、根本的かつ永続的に治療する確実な手段はまだないとされており、一般に、1年に1回程度の定期検査で経過観察を行い、甲状腺機能が低下した場合に初めて甲状腺ホルモンの補充両方を行うとされているところ、当該被爆者の慢性甲状腺炎については、おおむね3か月に1回の経過観察が行なわれていたものの、その態様は、問診や触診による甲状腺の様子の観察を行い、必要に応じて、血液検査やエコー検査を行なうというものにすぎず、その結果、前記(b)の慢性甲状腺炎の診断から申請までの間に投薬治療が必要とされることもなかった。
(d)当該被爆者の慢性甲状腺炎については、主治医が何らかの合併症や続発症の具体的な前兆を把握した上で積極的治療行為を行っていたものとはいい難い状況が継続していた。

②事件について:
①放射線白内障についてカリーユニ点眼液の処方を伴う経過観察を受けている被爆者は、放射線白内障の多くは進展せず、一度手術適応があると判断されても多くは日帰り手術で視力を回復することができるとされていること、
②前記経過観察は手術適応の有無を判断することを目的とするものであるところ、当該手術適応の有無の判断においては日常生活における支障があるか否かという患者の主観的な側面が重視されていること、
③カリーユニ点眼液は老人性白内障の成因について特定の考え方を採ることを前提としてその進行を抑止する効果があるだけであり、放射線白内障の治療は手術以外にはないこと
など判示の事情の下においては、
被爆者援護法10条1項所定の「現に医療を要する状態にある」と認められるとはいえない。

判例時報2473

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