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2021年4月 3日 (土)

親の子(当時19歳)に対する準強制性交等罪の事案で抗拒不能が問題となった事案

名古屋高裁R2.3.12

<規定>
刑法 第一七八条(準強制わいせつ及び準強制性交等)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

<一審> Aの同意がなかったことは認めたが、Aが抗拒不能であったことについては、合理的疑いが残る。

①本件以前の被告人による暴行の程度が強度のものではなく、抵抗を続けた結果として性交を拒むことができたという経験を有していた
②日常生活全般において被告人の意向に反する行動を取れていた
③本件事件以前に被告人から暴行を受けた際、弟らの協力を得て性的虐待を回避することができた期間もあった

<判断>
●抗拒不能要件の解釈
一審判決は、刑法178条2項の心理的抗拒不能について
「相手方において性交を許否するなど性交を承諾・認容する以外の行為を期待することが著しく困難な心理状態にある場合」
としている点では正当。
but
抗拒不能該当性の判断の箇所では、
「逆らうことが全くできない状態」
「人格の完全支配」
「服従・盲従せざるを得ないような強い支配従属関係」
というように先の要件解釈とは異なるより厳しい成立範囲を設定⇒一貫性に欠ける

●抗拒不能該当性の認定・評価について
暴行の強度の評価にも問題があるが、
仮に頻度が少なく執拗生が弱くても、それは被告人の反復継続的な性的虐待によってAの抵抗が弱まるなどした結果とも評価できる
⇒一審判決は、被告人のAに対する暴行が反復継続して行なわれた性的虐待の一環であることを軽視

性的虐待が行われる一方で普通の日常生活が展開されているということは虐待のある家庭では普通のこと(各医師の証言)
⇒一審判決が指摘する日常生活におけるAの行動は抗拒不能判断の事情とはならない。

過去に性的虐待を回避できた経験があったとしても、その後、以前より被告人の性的虐待の頻度が増した
⇒それはAの無力感増強の理由にこそなれ、抗拒不能状態を否定する事情とはいえない

性交を回避するための策をためらっていたことについても、その事情は抗拒不能の事実の推認を強めるものではあっても、妨げるものではない。
⇒有罪を認定し、求刑どおり懲役10年。

<解説>
本件行為が、父親が実の子に対し継続的に行った性的虐待の一環であるという実態を一審判決が十分に評価していないという点が強調され、
一審判決が抗拒不能状態を否定する事情として挙げた諸点は、いずれも抗拒不能状態を否定する事情とはなり得ないばかりか、むしろこれを肯定する事情となり得るとしたもの。

判例時報2467

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