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2021年4月24日 (土)

夫の暴力から逃れるため約13年別居し、住民票の住所を移していた妻について、生計同一要件が認められた事例

東京地裁R1.12.19

<事案>
Xが夫Aの死亡後、遺族厚生年金の裁定請求⇒厚生労働大臣(処分行政庁)から、厚年法59条1項所定の「被保険者の配偶者であって、被保険者の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」(「生計維持要件」)に該当しない⇒遺族厚生年金を支給しない旨の処分⇒Y(国)を相手に、本件不支給処分の取消しを求めるとともに、厚生労働大臣が本件裁定請求に係る遺族厚生年金の支給裁定をすることの義務付けを求めた。

<解説>
● 厚年法59条4項:生計維持要件の認定に関し必要な事項は政令で定める。
同法施行令3条の10:
生計維持要件を満たす配偶者等について、
被保険者の死亡当時、「その者と生計を同じくしていた者」(「生計同一要件」)であって、
厚生労働大臣の定める金額以上の収入を招来にわたって有すると認められる者以外のもの(「収入要件」)
その他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とすると規定。
本件では、Xについて生計同一要件を満たすかどうかが争われた。

● 生計維持要件の認定:
厚生労働省年金局長の通知(H23.3.23発0323第1号「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」)により認定基準が規定。
配偶者の生計同一要件に関してては、同認定基準によれば、
①住民票上同一世帯に属しているとき
②住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき
③住所が住民票上異なっているが、現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき
のいずれかに該当⇒生計同一要件を満たす。

これらの場合に当たらなくても、
④単身赴任、就学又は病気療養等のやむを得ない事情により別居しているが、生活費、医療費等の経済的な援助が行なわれていることや、定期的に音信、訪問が行なわれていることといった事情が認められ、その事情が消滅したときには、起居を共にし、消費生活上の家計を1つにすると認められるときは、生計同一要件を満たす。

同認定基準のただし書において
これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、同認定基準の定めによらずに認定することが定められている。

<判断>
● 検討の前提として、
厚年法59条4項を受けた同法施行令3上の10の定めは、
被保険者 と生計を同じくし、かつ一定の収入以下である配偶者は、通常、被保険者等の収入によって生計を維持していたものと推認することができることを前提に、
被保険者等の収入の具体的金額や、それが当該配偶者の生計を維持する上でどの程度の割合を占めていたか等を問わず、生活保障の必要性があるものとして生計維持要件該当性を認める趣旨。

前記認定基準に定めのある④の場合は、①ないし③に該当しない場合でも生計同一要件を満たすと評価できる典型的な場合について定めたものというべきであって、

夫婦の在り方にも様々なものがあり得ることに照らせば、生計同一要件を満たすと評価される場合を前記認定基準に定める場合に限定するのは相当ではない。

前記認定基準総論ただし書はこのような考え方と同旨。


①XがAとの別居を開始kしたことはやむを得ない事情によるものであり、別居が長期間に及んだことも、Aが反省の態度を全く見せていなかったこと、Xが弁護士に相談した際、別居して身を守ることを優先すべきである旨の助言を受けたこと、Aが第三者への暴行を繰り返して逮捕され刑務所で服役していたこと等、相応の理由に基づくものといえる。
②別居中のXの生計を維持するには、Xの年金収入及び長男や長女等による経済的援助だけでは足りず、Aの収入から得られた財産(同居時に現金で貯蓄していた金銭及び別居時に持ち出した金銭等)を用いることが不可欠であり、Xが持出すなどした金銭を生活費に充てることについてはAも黙認していたこと
③長期間に及ぶ別居にもかかわらず、X又はAのいずれからも離婚に向けた働き掛けがされたことはなく、そのほかの両名の行動に照らしても、XとAとの婚姻が形骸化し、婚姻が解消されたのと同様の状態にあったとは評価することができない。

Xは、別居中もAとの婚姻関係を基礎として、Aの収入によって生計を維持していたものということができる
⇒生計同一要件を満たすものと評価するのが相当。

本件の事実関係の下においては、XがAの死亡当時Aと生計を同じくしていたと評価することが、生活保障を必要とする被保険者等の配偶者を保護しようとする厚年法59条1項の趣旨に沿うものということができる。
Xが住民法上の住所を移した理由は、Aが健康保険に加入せず、医療費の全額を支払わなければならない状態にあったためであり、このような状態になければ、別居後もAと住民票上の世帯を同じくしていた可能性が否定できない。

本件について前記認定基準に基づき生計同一要件の認定を行うことは、実態と著しくかけ離れたものとなり、社会通念上妥当性を欠くことになる

本件は前記認定基準総論ただし書の場合に当たるものということができる。

本件不支給処分は違法であり、取り消されるべき。
本件義務付け請求は、行訴法37条の3第5項の要件を満たし、厚生労働大臣に対し本件裁定をすべき旨を命ずるのが相当。

判例時報2470

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