許可認可等臨時措置法及びその委任を受けた都市計画法及同法施行令臨時特例に基づき内閣の認可を受けることなく行われて旧都市計画法に基づく都市計画決定の適法性等
東京地裁R2.2.27
<事案>
東京都内の幹線道路の整備に関する都市計画事業の認可の適法性が争われた取消訴訟の事案。
国土交通大臣から権限の委任を受けた関東地方整備局長が、Z(東京都)の申請に基づき事業認可をしたところ、事業地内に現に居住していたXら18人が、Y(国)を相手に、事業認可の違法を主張してその取り消しを求めた。
<解説>
都市計画事業は、都市計画に基づいて実施される⇒事業の内容が都市計画に適合することが認可の要件とされている(都市計画法61条1号)。
⇒
認可の取消訴訟においては、認可の前提となる都市計画の適法性が争われることが多い。
<争点>
①都市計画決定の手続き上の適法性に関し、旧都計法の特例を定める許可認可等臨時措置法が都市計画決定当時有効に存在していたか
②事業認可の適法性に関し、 その前提となる都市計画決定の適法性の判断基準時をいかに解するか(都市計画決定後の事情の変化により事業認可が違法となる余地があるか)
<解説・判断>
●臨時措置法の有効性について
臨時措置法:
太平洋戦争中の昭和18年に立法された、3項からなる法律。
臨時措置法1項:
「大東亜戦争に際し行政簡素化のため必要あるときは勅令の定める所に依り法律に依り許可、認可・・・等を要する事項」について、これを「要せざることとすること」ができると規定
⇒
臨時措置法の委任を受けた都市計画法及び同法施行令臨時特例2条は、
「都市計画法第3条の規定による内閣の認可」(旧都計法3条が手続要件として定める内閣の許可)について、「これを受くるを要せず」と規定。
⇒
本件都市計画決定は、これらの規定に基づき旧都計法3条所定の内閣の認可を受けていない。
Xら:臨時措置法1項の「大東亜戦争に際し」との文言⇒臨時措置法は、太平洋戦争(大東亜戦争)遂行のための戦時国内体制確立を目的として立法されたものであって、同戦争終結と同時失効している⇒戦後に行われた本件都市計画決定に適用される余地はない
政府:臨時措置法が平成3年に廃止されるまでの間、一貫して、「大東亜戦争に際し」との文言は法制定の動機にすぎず、臨時措置法の目的は今もなお重要であるとして、その有効性を肯定する見解。
判断:
①臨時措置法の目的である行政手続簡素化の要請は、戦争終了時までに限られるものではなく、戦後の復興の過程においても継続することが容易に想定される。
②臨時措置法がその有効期間について特段の規定を設けていない⇒その効力廃止の時期をいつとするかは、国会及び内閣の裁量に委ねられているものと解するのが相当。
⇒
臨時措置法は、廃止されるまで有効に存続していた。
●臨時措置法は許認可制の変更判断を勅令(現行憲法施行後は政令)に全面的に委任⇒委任命令の限界を超え憲法41条、73条6号に反するのではないか。
but
本判決では触れられていない。
●都市計画決定の適法性の判断基準時
A:都市計画決定時
B:都市計画事業の認可時
C:A説の理解を前提としつつ、様々が法律構成により、都市計画決定後の事情の変化が事業認可の適法性に影響を及ぼす余地を肯定するもの。
本判決:
都市計画決定後の事情の変化が直ちにその適法性に影響を及ぼすものではない。
but
都市計画決定後に相当の長期間を経過し、当該都市計画の基礎とされた社会・経済情勢に著しい変化があったこと等により、当該都市計画の必要性や合理性がおよそ失われ、都計法21条1項に基づき当該都市計画を変更すべきことが明白であるといえる事情が存するにもかかわらず、これが変更されないまま事業認可申請に至ったものであることが一見にして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限り、
事業認可が違法となる。
都市計画事業者の認可権者:
事業の内容が都市計画に適合していることを審査すれば足りるのであって(都計法61条1号)、他の都市計画との整合性等を見る以外に、都市計画の内容を審査することまでは想定されていない。
かえって、都市計画事業の認可権者が都市計画の具体的な内容によって審査を行うことは、都市計画の決定権者たる地方自治体への不当な干渉となりかねない。
but
都市計画を変更すべきことが一見して明白な場合(ex.大規模な自然災害等によって、都市の実体や機能が大きく変容している場合。)
都市計画事業の前提となる都市計画はもはや無効ないし不存在というべき⇒認可権者においては事業の申請を却下すべきであり、このことを看過してされた都市計画事業認可は違法の瑕疵を帯びるものと解される。
判例時報2470
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