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2021年4月22日 (木)

現住建造物等放火、殺人、同未遂罪で起訴、火災実験で無罪⇒控訴審で差戻し⇒差戻審で有罪

さいたま地裁R1.10.31

<事案>
被告人が妻子を殺害しようと企て、中2階踊り場付近に何らかの方法で火を放った⇒被告人を現住建造物放火、殺人、同未遂罪で起訴。

<差戻前第1審>
出火元について、2階南側六畳間が含まれる可能性がある⇒中2階踊り場付近に限定することはできない⇒公訴事実は証明不十分

・・・推定される着火行為終了時刻では被告人はすでに外出していて放火は不可能であるか、又は可能であっても着火後燃え広がるのと確認してから外出したとすると不自然になる。

被告人が外出した時刻(最も被告人に有利なもの)から着火終了推定時刻までの6分間に、解離性障害の影響下で睡眠薬の副作用により衝動的な自傷行為として放火した可能性がある⇒被告人が放火したことについて合理的な疑いが残る。

無罪

<控訴審>
原審が燃焼実験で得られた数値を基に着火終了時刻を推定した手法を批判

①本件の燃焼実験には設定条件(窓の開放・助燃剤の使用等)の問題⇒着火終了から煙の流出迄の時間について 秒単位の再現性があるとは認められない。
②原審は煙の流れについて単に煙が風速で進むことを前提としたが、家裁によって熱せられた煙は建物から流出した後、上昇しながら風下にたなびいていき、冷えて下降して周辺に立ち込めるはす

原審が推定した着火終了時刻と被告人の外出時刻を対比した手法は不合理。

燃焼実験の各局面と、防犯カメラの映像や近隣住民の目撃から認定できる火災の専門家の証言を採り、その時刻に被告人が本件建物内にいて放火したとの推認を妨げない。

妻が放火した可能性・・・認め難いとし、
原審が被告人が放火したことに合理的な疑いが残るとしたのは論理則経験則に照らして不合理。

原審が指摘した2南側六畳間も出火元である可能性については、その正誤を断定できず、燃焼実験にもかかわった前記の専門家を再度尋問して吟味すべき⇒事件を第一審に差し戻した

<差戻審>
出火元については、専門家の証言に依拠⇒2階南側六畳間の可能性も完全には否定できない。

被告人の外出と煙の発生が時間的に近接⇒出火時刻に被告人が本件建物内にいて放火したことが相当疑われる

妻Aは睡眠導入剤の影響で眠っていたと考えられる。
眠っていなかったとしても、本件で想定される放火行為には、被告人が外出してから防犯カメラに煙が映り始めるまでの7分間に、中2階踊り場付近に可燃物を配置するなどの準備をした上で着火し、臨機応変に可燃物を追加するなどの工夫が必要であり、そのような行動をすることは一般人には極めて難しい。

精神科医師の証言⇒Aの病状が重くなかった場合には自殺するために放火した可能性は考え難いし、他方、病状が重かったとすれば、的確な状況把握・判断ができず、試行錯誤や創意工夫を要する行為はできないはず。
⇒Aが本件で想定される放火行為をした具体的可能性はない。

妻子を殺害する動機もあった
⇒被告人が放火

<解説>
控訴審は差戻しに当たって出火元を確定するための審理を支持し、差戻審も火災の専門家を再度尋問⇒結局、2階南側六畳間から出火した可能性も否定できないとの結論にとどまった。
but
控訴審が原判決を破棄した上で事件を差し戻したのは、被告人が有罪であれば量刑評議を裁判員を含む裁判体が行なう機会を保障する狙いもあった。
本件では、焼け跡の調査に加え、煙の動きや被告人の行動が映った防犯カメラの映像があり、捜査官は専門家の関与を得て燃焼実験を行なった。
Aの行動については、精神疾患の治療歴や精神症状に関する医師の見解が得られていた。

これらの証拠に基づいて、火災発生の時期・機序を推定して放火行為を想定するとともに、その時期における被告人の行動とAの行動を推定することになった。

判例時報2468・2469

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