第1種少年院送致決定をした原決定が取り消された事案
東京高裁R2.4.2
<事案>
少年が、当時の交際相手である被害者(当時22歳)方居室において、被害者に対し、「俺がお前をぶっ殺すぞ」と言って、持っていた包丁(刃体の長さ約15.7㎝)を示して脅迫した事案
<判断>
●第1種少年院送致決定をした原決定を、
その処分は著しく不当であるとして、これを取り消した。
●非行事実の軽重(悪質性)
相応に悪質であるという原決定の評価が誤りとはいえない。
but
少年と被害者との間に、これまで繰り返されてきたのと同様のいさかいを生じて両者が相互に感情を高ぶらせ、被害者が何度も「死ね」と言ったことに少年が逆上して本件に及んだと見られる⇒4歳年上の成人である被害者の対応にも問題点が少なからずあった
⇒動機や経緯に酌量の余地がないとはいえない。
①少年と被害者との位置関係、
②少年が包丁を持ち出した意図、
③本件が少年と被害者とのやり取りの中で衝動的に行われたといえる
⇒
態度が極めて悪質なものとはいえない。
●要保護性
原決定:
①少年の非行性が十分改善されないまま、非行の範囲が暴力的な行動にまで広がった
②少年が一方的に憤りを感じて安易に刃物を持ち出し、性格、行動傾向上の問題点が現実化した
③内省が十分深まっていない
④家庭に適切な指導を期待できない
⑤みるべき外的資源はない
⇒
少年の要保護性は相当に高い。
少年を社会内で処遇すれば、対人関係で葛藤や強いストレスを感じた際等に再非行に及ぶ危険性が高い。
本決定:
①少年の家裁係属歴(これまで窃盗のみ)
②処分の経緯(初回の窃盗で短期保護観察であったが、前件の窃盗については、少年に健全な生活志向が確立されている)
③本件の経緯や動機
④被害者との交際開始前に少年に粗暴癖がうかがえないこと
⑤鑑別結果通知書や少年調査票の粗暴性の認定に根拠が乏しい
⇒
原決定①は相当ではない。
少年の粗暴性の原因や評価、再非行の可能性等に関し
(1)鑑別結果通知書の「安定した異性関係を築けずに同種再非行に及び、子への虐待に及び危険性がある」、「独り善がりな女性観」があり、「暴力支配的な異性関係になじみつつある」、「交際相手や配偶者、子への一方的な暴力(虐待)に及ぶおそれがある」
などの指摘
(2)少年調査票の「交際相手や女性との間で苛立ちや葛藤を抱えたときに暴力や暴言に及び、家庭を持ったときにDVや虐待に及ぶ危険性がある」、「被害者の発言に苛立つと暴言が止まらない」、「ストレスを感じると一方的に暴言を吐いたり、身体に危害を加えたりするなどの感情の赴くままに攻撃する」、「交際相手や家族等の親密な間柄」に対し、「感情が昂ると衝動的に行動する点が問題である」、「家族や親友等の親密な人に傍若無人に振る舞う」、「親密な対人関係においてその問題性が現れた」などの指摘
vs.
その根拠が不明であるか十分でない
根拠とされる事実から当該指摘や評価ができるか疑問
記録上、少年の粗暴性や暴力支配的異性関係等を裏付ける事実等はうかがわれない
⇒
本件の経緯等からもしても本件非行がこれらの指摘に該当するようなものとはみられない。
<解説>
家裁の決定が非行事実及び要保護性の前提事実を正しくとらえていないとする抗告理由は多いが、原決定の理由付けのみに着目するものが多く、その根拠となる少年調査票や鑑別結果通知書の内容についての問題点を指摘するものは多くない。
but
要保護性判断の重要な資料となる少年調査票や鑑別結果通知書に、認定の根拠が十分でない事実やそれに基づく評価、あるいは評価として不相当な内容が含まれていれば、要保護性の判断に疑問が生じるのは当然。
判例時報2468・2469
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