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2021年3月 6日 (土)

同性の共同生活者について犯給法5条1項1号にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たらないとされた事例

名古屋地裁R2.6.4

<事案>
X(男性)と 共同生活を継続していた男性が、Xと交際していた別の男性に殺害された

Xが、犯罪被害者等の支援に関する法律(「犯給法」)5条1項1号にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」として同号所定の「配偶者」に該当⇒遺族給付金(犯給法4条1号)の子宮の裁定を申請⇒愛知県公安委員会から「配偶者」とは認められないとして、遺族給付金の支給をしない旨の裁定⇒Y(愛知県)を相手にその取消しを求めた。

<争点>
同性の犯罪被害者(犯給法2条2項及び3項)と共同生活関係にあった者が、「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るか?

<主張>
X:同性間の共同生活にあった者についても犯給法の趣旨が実質的に妥当する⇒「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得る。
Y:「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」は内縁関係にあった者と同義であり、内縁関係は異性間の関係のみを予定する以上、同性間の共同生活関係にあった者が含まれる余地はない。

<判断>
犯給法の目的が、社会連帯共助の精神に基づいて、租税を財源として遺族等に一定の給付金を支給し、国の法制度全般に対する国民の信頼を確保することにある⇒犯給法による保護の範囲は社会通念により決するのが合理的

同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するためには、同性間の共同生活関係が婚姻関係と同視し得るものであるとの社会通念が形成されていることを要する。

● そのような社会通念が形成されているか否かについて、以下のとおり、本件処分当時の状況に照らして判断した上で、同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に当たると認めることはできない。

①多数の地方公共団体が、同性パートナーシップに関する公的認証制度を創設し、同性間の共同生活関係に関する証明を行なう制度を設けている上、
公営住宅の入居や職員の対偶等の局面において同性パートナーを配偶者と同様に取り扱う地方公共団体が存する
②民間企業においても、同性パートナーを配偶者と同様に取り扱う動きが進んでいること等

本件処分当時の我が国において、一部の地方公共団体が性的少数者の人権保障に向けた各種の施策を実施ししたことなどを契機として、同性間の共同生活関係についての社会一般の理解がい相当程度進んでおり、差別や偏見の解消に向けた動きが進んでいるものと評価できる。
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同性パートナーシップが社会生活において、その性的思考を理由に様々な不利益を受けている状況にあったことから、性的少数者に対する差別や偏見を是正することにより、その人権が尊重されるようにすることを目的として創設されたものであり、民間企業における取組等も同様の目的に基づくものであると認定
あわせて、公的認証制度の内容としても、配偶者特別控除等の直接的な法的効果は付与されておらず、婚姻関係を男女間の関係とする婚姻法の規律に影響を及ぼすような制度設計がされるには至っていない。

諸外国における同性婚の導入の経過等

同性間の共同生活関係に関する社会制度の形成は、
①婚姻とは別の生活パートナーとしての登録あるいは共同生活のための契約の登録を認め、婚姻に近似した法律関係を保障する⇒
②事実婚としての法的保障を及ぼす⇒
③同性婚そのものを法制化する
といった段階を経て徐々に進むことが想定されるところ、
我が国の状況は、①の段階より前のもの。

①同性婚の法制化が実現する具体的な目処が立つに至っているとまではいえない、
②同性婚に関する意識調査においても賛成意見と反対意見はなお拮抗していると評価し得る

本件処分当時の我が国において同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできない。

<解説>
近時、同性間の交際をめぐって、
同性の事実婚の関係にあった者による不貞行為に係る慰謝料請求を認容した判決。
遺族年金等に関して、犯給法と同様の文言により定義された「配偶者」の意義をめぐって
①事実上の離婚状態にある者を含まないとした最高裁昭和58.4.14
②民法734条1項により婚姻が禁止された近親者同士の内縁関係にあった者を含み得るとした最高裁H19.3.8
があるところ、
これらの判例は「配偶者」の意義につき遺族給付金特有の解釈を示している。

判例時報2465・2466

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