原発事故の慰謝料が問題となった事例
仙台高裁R2.3.12
<事案>
東北地方太平洋沖地震の津波により発生した東京電力福島第1原発の爆発事故後、放射性物質の拡散による被害から非難した者が提起した集団訴訟の最初の高裁判決。
東京電力に対し原子力損害賠償損害賠償紛争審査会(原賠審)の中間指針を超える慰謝料の請求を認めたもの。
被告は、本件事故により放射性物質が拡散したことにより生じた原子力損害について、過失の有無に関わりなく、原賠法3条1項に基づく損害賠償責任がある。
被告は、原賠審が、原賠法18条2項2号に基づき本件事故による原子力損害の範囲の判定等に関して策定した中間指針に従い、避難生活に伴う慰謝料、財物損害、その他の費目について賠償金を支払っている。
<主張>
原告は、主位的に民法709条、予備的に原賠法3条1項に基づき、損害賠償を請求。
請求額:
各原告につき、
①避難生活に伴う慰謝料、
②ふるさと喪失慰謝料、
更に1部の原告につき、
③財物損害(住宅・家財)
の賠償を加えた合計から既払金を控除して弁護士費用を加えた額。
<判断>
●原判決が原告の主位的請求を棄却した部分についての原告の控訴を棄却。
原判決が予備的請求を一部認容した部分について、は、慰謝料について、
原判決の認容額と同じ帰還困難区域については原告・被告双方の控訴を棄却し、
居住制限区域又は避難指示解除準備区域、緊急時避難準備区域については、原告の控訴に基づき認容額を増額し、被告の控訴を棄却。
(1)帰還困難区域1600万円
①避難を余儀なくされた慰謝料150万円
②避難生活の継続による慰謝料850万円
(月額10万円×平成23年3月から平成30年3月までの85か月、期間中に死亡した者も同額)
③故郷の喪失による慰謝料600万円
(2)居住制限区域又は避難指示解除準備区域1100万円
①150万円
②850万円
③故郷の変容による慰謝料100万円
(3)緊急時避難準備区域
①70万円
②180万円
③50万円
●
被告が原賠審の中間指針に従った賠償義務を認めている
⇒
被告の賠償基準により評価できる損害と評価し尽くせない損害とを区分して検討するのが合理的。
被告は、避難指示の程度に応じて相当の避難期間を定め、その期間について1人月額10万円の割合による避難生活に伴う慰謝料を支払っている
⇒
相当の避難期間に応じた慰謝料を算定するとともに、
それでは評価し尽くせない損害についての慰謝料として、被害の実情を勘案し、避難を余儀なくさせた慰謝料、故郷の喪失又は変容による慰謝料を算定。
故郷の喪失又は変容による慰謝料又は変容による慰謝料を算定するにあたり、
地域における住民の生活基盤としての自然環境的条件と社会環境的条件の総体について、これを一応「故郷」と呼ぶこととし、法的保護に値する利益と評価した上で、避難を余儀なくされた慰謝料や避難生活の継続による慰謝料を算定しただけでは評価し尽くされない損害について、むしろ地域社会全体が突然避難を余儀なくされて容易に帰還できず、仮に帰還できたとしても、地域社会が大きく変容してしまったという本件の被害の実態に即した損害の評価の在り方として適切であると判断。
判例時報2467
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