GPS機器装着による位置情報探索のストーカー規制法上のストーカー行為該当性(否定)
①福岡高裁H30.9.20
②福岡高裁H30.9.21
<事案>
ストーカー規制法2条1項1号(本規定)は、「ストーカー行為」を構成する「つきまとい等」の一形態として、「住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近における見張り」を挙げている。
被告人が、相手方が使用する自動車にGPS機器を装着して位置情報を探索することが、この「住居等の付近における見張り」に該当するかが問題となった事案。
①事件
<事案>
被告人は、別居中の当時の妻が使用する自動車を駐車するために賃借していた駐車場において、同車にGPS機器を密かに取り付け、その後多数回にわたって同社の位置情報を探索して取得することにより妻の動静を把握する方法で「住居等の付近における見張り」を「したとして起訴
<原審>
有罪←
①
②
③GPS機器を自動車に取り付ける行為は、それ事態に妻の動静把握の性質がある上、その後に予定している位置情報探索取得行為と強い関連性・一体性がある⇒単なる準備行為と捉えるのは妥当ではなく、妻の通常所在する場所である駐車場でなされた取り付け行為と一体のものとしてみれば、全体として場所的要件も充足する。
<判断>
原判決には法令適用の誤りがあるとして、原判決を破棄し自判
←
①「見張り」の語義は本来的に感覚器官を用いた観察行為を指し、これと異なる機序による動静把握行為は、当然には「見張りに」含まれない
②本規定における「見張り」には場所的要件による限定が付されている⇒観察行為自体に感覚器官が用いられることは当然の前提
③刑罰法規の解釈は、保護法益等も踏まえて合目的的になされる必要があるが、あくまで法文の文言の枠内で理解できる範囲に限られ、これと乖離して処罰範囲を拡張することは許されないところ、「視覚等の感覚器官を用いた」という点は「見張り」の文言の基本的で重要な要素というべきであり、動静把握行為一般が「見張り」に該当するとした場合には、概念の辺縁が不明確となり、予測可能性が確保し難い
④原審理由③の解釈は、場所的要件を実質的に無意味化するもので許されない。
<最高裁>
「住居等の付記において見張り」をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、「住居等」の付近という一定の場所において同所における特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する⇒本判決の結論は正当として是認できる。
②事件
<判断>
(有罪とした)原判決を破棄。
but
本件公訴事実には、被告人が相手方の自動車にGPS機器を取り付ける際に、付近に相手方がいないかどうか確認するなどして動静を観察する行為が含まれていると解する余地がある⇒これは「住居等の付近における見張り」に該当する余地があるとして、差戻し。
<解説>
刑罰法規の解釈において、言葉の字義による限定をどこまで厳格に守るべきか、
社会の変化による処罰の必要性の要請にどこまで柔軟に対応すべきか
という困難な問題の1つの例。
判例時報2463
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