違法収集証拠により尿の鑑定書の証拠能力が否定された事案
①大阪地裁R1.9.25
②京都地裁R1.10.29
<①事件>
弁護人:
ポリ袋は麻薬取締官が持ち込んだもの
【判断】
弁護人の主張が事実である疑い⇒その違法は重大⇒被告人の尿の鑑定書等はこれを密接に関連するものであるとし、その証拠能力を否定⇒自白の補強証拠がないとして無罪。
←
①写真2には洗面台上に本件パケが写っているのに、捜査開始後間もなく洗面台付近を撮影した写真1には本件パケらしき物が写っていない。
②9名で捜索しながら約1時間半も経って発見されたという経緯に不審な点がある。
③被告人の投機物からパケを拾得して持ち込んだ疑いがあるとうい弁護人の主張に関連して、マンションの防犯カメラの画像データが一部消去されていた。
捜査の適法性について検察官の立証責任は尽くされていないと判断。
<②事件>
【争点】
①職務質問の適法性
②被告人の覚せい剤使用の嫌疑及び強制採尿等の必要性
③強制採尿令状等の執行の適法性
【判断】
争点①について:
居室前まで追従して質問した点は適法
but
居室に立ち入って留まった行為(本件立入り等行為)は、被告人の意思を制圧して、住居についての生活の平穏やプライバシー等の重要な個人的法益を大きく侵害したもの⇒無令状による違法な強制処分。
立ち入る必要性、緊急性もなかったか相当に低かった
⇒その違法は重大であり、室内での写真撮影も同様。
争点②について:
強制採尿がやむを得ない場合の最終手段⇒通常の捜索差押許可状よりも高度な嫌疑が必要。
捜査報告書の内容のうち、立ち入り前に判明した
①覚せい剤常習者特有の症状、及び
②覚せい剤事犯の犯歴
によっては、強制採尿令状発付に必要な嫌疑及び強制採尿の必要性は認められない。
③自室での被告人の異常な状況、
④注射痕の存在
⑤任意採尿の許否
⑥その後の立去り
は、嫌疑及び必要性を基礎付ける。
but
重大な違法がある本件立入り等行為の結果判明し又は現れた事実であって、同捜査報告書の瑕疵は大きい。
写真も重大な違法のある撮影行為によって直接得られたもの
⇒
これらの疎明資料に基づいて発付された令状による強制採尿手続には重大な違法がある
⇒
尿鑑定書の証拠能力を否定。
<解説>
本判決:
警察官が、被告人が閉めようとしたドアを手で抑える有形力を行使しつつ、承諾なく被告人方居宅内の靴脱ぎ場まで立ち入り、退去を求められても留まっていた本件立入り行為は強制処分に当たる。
その必要性も緊急性もない又は相当低いのに、これを無令状で行なった違法は重大。
大阪高裁H30.8.30:
警察官が被告人のアパートの共用部分に立ち入り、被告人方の扉を閉めさせなかった行為は強制処分であり、その違法性は重大。
but
本件は、住居内まで立ち入り⇒憲法35条が保障する住居の不可侵を直接侵害したものであり、同事案以上に権利侵害性が大きい。
A(本件):強制採尿における嫌疑の程度について、通常の捜索差押許可状よりも高度な嫌疑が必要。
B:通常の捜索差押許可状の場合と同程度でよい
←
①最高裁が矯正採尿の要件として単に「嫌疑の存在」と述べている
②一般に捜索差押許可状の発付には逮捕の場合よりも低い嫌疑で足りる
③強制採尿は捜査の初動段階で行なわれる。
判例時報2459
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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