覚せい剤使用の事案で、違法収集証拠として、尿の鑑定書の証拠能力が否定された事例
東京高裁R1.7.16
<事案>
覚せい剤の自己使用の事案で、被告人の尿の鑑定書が違法収集証拠に当たるかが争われた事案。
<控訴趣意>
被告人が、公道上で身体検査を受けた際、警察官から突然陰部を触られた⇒それ以上の身体検査を許否。
その後の警察官からの執拗な要求に応じて、公道上で下着を下ろし、陰部を露出して身体検査に協力
but
これらの事実を記載しない虚偽の報告書を提出して強制採尿令状を裁判所に請求し、同令状を取得⇒重大な違法がある。
⇒
被告人の尿の鑑定書(本件鑑定書)は違法収集証拠として証拠能力がない。
<判断>
被告人は、警察官から断りなく陰部付近を触られた⇒大声を出して怒る⇒警察官は、被告人の反応を見て被告人が陰部付近に違法薬物を隠匿しているのではないかと疑いを深め、「パンツの中を見たい。何か隠している」「中に隠していなければ見せることができるはずだ」などと言い続けた⇒被告人は「分かった」などと言って、ズボンとパンツを膝までおろした。
警察官が、当初、被告人に対して、職務質問に対する応答の仕方や薬物犯罪歴等から、違法薬物の所持及び使用の嫌疑を抱いた事自体は正当。
but
その後は、
①被告人の陰部付近に薬物を隠匿しているのではないかと考えて、令状がないのに意図して陰部付近の捜索を行い、
②続けざまに、被告人に対してそのプライバシーや羞恥心への配慮を全く欠いたまま公道上でパンツを脱ぐように要求し、実際に被告人にパンツを脱ぐに至らせた上、
③以上の手続的な違法を糊塗するために、本件令状請求の孫寧資料に、令状審査を行う裁判官をして令状請求の根拠となる覚せい剤の隠匿の嫌疑に関する事実を誤解させる記載をして裁判所に提出
⇒
このような一連の捜査の家庭は、違法に違法を重ねるものであって、令状主義の精神を没却する重大な違法。
前記①ないし③の一連の捜査過程の違法は、覚せい剤所持の嫌疑に係るもの
but
本件令状請求が、覚せい剤の所持のみならず使用についても同じ疎明資料を用いて行われており、両者が相互に密接に関係
⇒
本件鑑定書は、重大な違法がある前記の一連の捜査手続と密接な関連を有するものとして、一連の違法な手続の影響を免れない
⇒
本件鑑定書は違法収集証拠として証拠能力を否定すべき。
<解説>
●東京地裁H24.2.27:
警察官が質問せずに所持品検査への協力を求め
交番内の相談室内で3名の警察官が取り囲み、
被告人は求められてベルトを外し・・・パンツが丸見え
警察官がパンツの上から被告人の股間に触れた
~
個人のプライバシーに対する配慮を欠いた著しく不適切なもので、違法。
被告人が、その結果発見された水溶液入り容器等を自発的に提出したかのように記載した報告書を作成して、令状請求の疎明資料とする
⇒
警察官らが自らの行為の違法性を認識していた
⇒
所持品検査委の違法の程度は、令状主義を没却するような重大なものであるとして、尿の鑑定書の証拠能力を否定。
●東京高裁H28.6.24:
警察官が被告人に対して覚せい剤使用の嫌疑を抱き、それを深めていった経緯について意図的に虚偽の内容を記載した捜査報告書を疎明資料として強制採尿令状を請求
任意同行の際にうそを言って被告人を立ち去ることが困難なパトカーに乗車させたとうい疑いがある
⇒
尿の鑑定書の証拠能力を否定。
~
強制採尿令状の疎明資料に、被告人に対する嫌疑を基礎付ける事情について虚偽の内容を記載したこと自体が問題。
判例時報2459
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