職務質問・逮捕に令状主義の精神を没却するような重大な違法⇒密接な関連を有する大麻等の証拠能力を否定
釧路地裁R1.9.27
<事案>
被告人が①公務執行妨害及び②大麻取締法違反の公訴事実で起訴⇒差戻前第1審が有罪判決⇒差戻前控訴審が審理不尽を理由として同判決を破棄⇒差戻後第1審が無罪判決
<弁護人>
公務執行妨害の公訴事実について:
被告人は体当たりも左肘を打ち付ける行為もしていない。
警察官らが被告人にヘッドロックをするなどして違法な職務質問を行っており、職務執行の適法性を欠く⇒無罪主張。
大麻取締法違反の公訴事実について:
本件大麻の証拠収集過程には、職務質問中に警察官が被告人に暴行を加え、要件を欠くのに逮捕するという重大な違法⇒押収された本件大麻等は違法収集証拠として証拠能力が否定されるとして、無罪を主張。
<判断>
①被告人が逃げ出した際に警察官に体当たりや肘を打ち付ける暴行を加えた旨の警察官らの公判供述の信用性を否定
②警察官から2度にわたってヘッドロックをかけられて制圧され、現行犯人逮捕された旨の被告人の公判供述の信用性を否定することは困難
⇒
公務執行妨害の公訴事実につき、被告人による暴行行為があったと認定するには合理的な疑いが残る⇒無罪。
大麻取締法違反の公訴事実:
①警察官が被告人に対してヘッドロックをしたことは、任意捜査である職務質問に附随する停止行為として許容される限度を逸脱したもの
②警察官らが逮捕の要件を欠く状況であったにもかかわらず本件逮捕に及んでいる
⇒
被告人に対する職務質問及び本件逮捕手続には令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これと密接な関連を有する本件大麻を証拠として許容することは、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない。
⇒
本件大麻及びその鑑定書の証拠能力を否定し、無罪。
<解説>
最高裁昭和53.9.7:
証拠の収集手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、証拠能力が否定される。
最高裁H15.2.14:
当該事案における逮捕手続の違法の程度は、令状主義の精神を没却するような重大なものであり、このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは、将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない。
前記逮捕の当日に採取された被告人の尿及びその鑑定書は、前記逮捕と密接な関連を有する証拠であるとして、前記鑑定書の証拠能力が否定される。
判例時報2459
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