死刑判決に対する控訴取下げの無効が問題とされた事案
大阪高裁R2.3.16
<事案>
一審死刑⇒一審弁護人は即日、被告人は平成30年12月31日、それぞれ控訴を申立て、被告人は、令和1年5月18日、大阪拘置所において同所長に対し控訴取下書を提出⇒弁護人らは係属部に対し、同月30日、本件控訴取下げが無効であるとして審理継続を求める申入書を提出し、後日、同取下げ前後の経緯に関する被告人からの聴取報告書や精神科医作成の意見書等の資料を提出。
<原決定>
本件控訴取下げを無効と認め、控訴審訴訟手続を再開・続行する旨原決定をした。
←
①本件控訴取下げの経緯をみると、死刑判決を確定させるという極めて重大な効果に照らして余りと言えば余りの軽率さであり、被告人が法的帰結を明確に意識していなかった疑いを生じさせる
②本件が死刑判決に対する控訴の取下げである点を十分に考慮する必要があり、死刑判決等に対する上訴放棄ができない旨の刑訴法360条の2の存在も参考になる。
検察官が、異議を申し立てると共に最高裁に特別抗告を行った。
<異議審での決定等>
●不服申立ての方法
本決定:
高等裁判所が控訴取下げを無効と認め、控訴院訴訟手続を再開・続行する旨の決定⇒同決定に対し、不服のある者は3日以内に異議の申立てをすることができる。
検察官は、原決定に対し、論理的には矛盾する異議と特別抗告の両方の申立てを行った。
原決定に対する特別抗告⇒最高裁で不適法として棄却。
本決定に対する特別抗告⇒最高裁で棄却。
⇒本決定が維持された。
~
控訴取下げを無効として訴訟手続を再開・続行する旨の決定に対する不服申立ては異議申立てによるべきことで、判例上決着。
●本決定
原決定が述べる前記理由に関し、
①本件控訴取下げが軽率になされた点を強調し、被告人が法的効果を明確に意識していなかった疑いが同取下げの効力に一定の疑念を生じさせるという点につき、合理的根拠を示しておらず、
②上訴取下げと上訴放棄とは局面が違う⇒刑訴法360条の2が根拠になると解し得ない。
意思表示や訴訟行為の無効事由がある場合には控訴取下げが無効となると解される。
but
原決定が述べる理由で無効を認めることは法解釈の枠を超える。
精神科医2名作成の意見書や証拠能力に関する証拠を精査しても、被告人の本件控訴取下げ時点における訴訟行為能力についての資料が甚だ不十分である⇒原決定の判断には誤りがあるとして取り消した。
①被告人の本件控訴取下げ時点での訴訟行為能力につき極めて慎重な検討が必要であるが判断資料が不足している
②さらなる事実の取調べは自判が原則(刑訴法428条3項、426条2項)の異議審裁判所の性格にそぐわず、自判に馴染まない事情がある。
⇒
原裁判所への差戻しを選択。
判例時報2461
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