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2021年1月 4日 (月)

在外日本人国民審査確認等、国家賠償請求控訴事件

東京高裁R2.6.25

<請求>
在外国民に審査権の行使を認めないことは憲法に違反する⇒
国に対し
①主位的にX1らが次回の最高裁判所裁判官の国民審査において審査権を行使できる地位にあることの確認
②予備的にX1らが次回の最高裁判所裁判官の国民審査において審査権を行使させないことは違法であることの確認、
③平成29年国民審査の際に原告らが審査権を行使することができなかったために精神的苦痛を被ったとして、国賠法1条1項に基づき、各原告につき1万円の支払を求めた。

<原審>
①「次回の国民審査において審査権を行使することができる地位」は、国会において、在外国民についての審査権の行使を可能にする立法を新たに行わなければ具体的に認めることのできない法的地位
②X1らに国民審査権の行使をさせないことが違法であることを確認したとしても、これによって国民審査権を行使することができる法的地位が具体的に認められるわけではない。

①②の確認の訴えは「法律上の争訟」には当たらない⇒却下。

③の請求:
平成29年10月22日当時、裁判官審査法が、在外国民であった原告らの審査権緒行使を認めていなかったことは、国民に対して審査権を認めた憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反
⇒国に対して、各原告に5000円を支払うよう命じた。

<争点>
①在外国民に対する国民審査権の行使制限が違憲・違法か否か
②主位的請求である地位確認の訴え、予備的請求である違法確認の訴えが適法か否か
③原告らの国家賠償請求が認められるか否か

<判断>
国民に、最高裁判所の裁判官の任命についての審査をする機会を付与した憲法の趣旨⇒国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず、これを制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない。
遅くとも平成29年国民審査の時点においては、裁判官審査法が在外国民の審査権の行使を一切認めずこれを制限していることについてやむを得ないと認められる事情があったとはいい難い

同法は、憲法15条1項並びに79条2項及び3項に違反。

X1らの本件地位確認の訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴え。
but
その確認の対象となる法的地位は、国会において、新たに立法を行わなければ、具体的に認めることのできないものであって、確認を求める対象として有効、適切ではない⇒本件地位確認の訴えは、不適法。
but
①本件違法確認の訴えは、X1らが、あらかじめ次回の国民審査において国民審査権の行使を許さないことが違法であることの確認を求める趣旨。
②国会において、在外国民に国民審査権の行使を認める旨の立法措置を講じない限り、X1らは、次回の国民審査においても、国民審査権を行使する権利が侵害される⇒その権利侵害の危険は、当審口頭弁論終結時において、現実的なものとして存在。

救済を図るために他に適切な方法がなく、即時確定の利益もある
⇒X1らの本件違法確認の訴えは、公法上の法律関係確認の訴えとして適法。

国政選挙は投票人が候補者の氏名や政党名を記載するという単記記名式による投票によっているが、国民審査は、罷免を可とする裁判官の欄に「X」を記載する記名式による投票によっており、その実施面において国政選挙と国民投票との間には技術的な差異がある
⇒最高裁H17.9.14(在外邦人選挙制限違憲訴訟)があるからといって直ちに在外国民に国民審査を認めないことの違憲性が明白になったといえない。
②東京地裁H23.4.26(在外日本国民最高裁判所裁判官国民審査訴訟)は、在外審査制度の創設のための議論の契機になり得るものとしても、これをもって、裁判官審査法の違憲性が明白になったものともいえない
③現在に至るまで、在外審査制度の創設に係る法律案が国会に提出され、審議されたこともないこと等

平成29年国民審査の時点で、国会において、在外審査を認めていない裁判官審査法の違憲性が明白になったものということはできない

国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。

<解説>
法律を適用することによって終局的に解決することができない紛争は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないと解されており(最高裁H29.2.11)
判例上、過去の事実又は法律関係の確認の訴えは原則として不適法とされている。

判例時報2460

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