公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認と行政不服審査法7条2項の「固有の資格」
最高裁R2.3.26
<事案>
沖縄防衛局は、・・・公有水面の埋立て(「本件埋立事業」)につき、同県知事から公有水面埋立法42条1項の承認を受けていた⇒事後に判明した事情等を理由として本件埋立承認が取り消された⇒これを不服として国土交通大臣に対し行審法に基づく審査請求⇒同大臣は、本件埋立承認取消しを取り消す旨の裁決(「本件裁決」)。
X(沖縄県知事)が、本件裁決は違法な「国の関与」に当たる⇒地自法251条の5第1項に基づき、Y(国土交通大臣)を相手に、本件裁決の取消しを求めた。
<法令>
普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する「国の関与」に不服⇒国地方係争処理委員会に対し、当該国の関与を行った国の行政庁を相手方として、審査の申出(地自法250条の13第1項)
同委員会の審査の結果又は勧告に不服⇒高等裁判所に対し、当該行政庁を被告として、訴えをもって当該審査の申出に係る違法な「国の関与」の取消しを求めることができる(同法251条の5第1項1号)。
「国の関与」:
地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち国の行政機関が行うものをいう(地自法250条の7第2項)。
but
同法245条3号括弧書により「審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為」(「裁決等」)は同関与から除かれている。
行審法に基づく審査請求に対する裁決がこの裁決等に含まれることは明らか。
but
同法7条2項は、国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関(「国の機関等」)に対する処分で、国の機関等がその「固有の資格」において当該処分の相手方となるものについては、同法の規定は適用しない旨を規定。
一般に、公有水面の埋立てをしようとする者は、都道府県知事の免許を受けるべきものとされている。(公有水面埋立法2条1項)
これに対し、国において埋立てをする場合については、これを実施する機関において都道府県知事の承認を受けるべきものとされ(同法42条1項)、埋立免許に係る規定の一部が準用されている(同条3項)。
尚、埋立免許及び埋立承認に係る事務は、いずれも法定受託事務に当たる(地自法別表第1)。
<Xの主張>
本件埋立承認取消しは国の機関である沖縄防衛庁がその「固有の資格」において相手方となった処分⇒行審法の適用が除外され、これに対してされた本件裁決は成立に瑕疵があり、「国の関与」から除かれる裁決等に当たらない⇒本件裁決は「国の関与」に当たりかつ違法である。
<原審>
本件埋立承認取消しは沖縄防衛庁がその「固有の資格」において相手方となった処分とはいえない⇒本件裁決は「国の関与」から除かれる裁決等に当たる⇒却下。
<判断>
上告を受理した上、「公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認は国の機関が行審法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない」
原審の判断を是認し、上告を棄却。
<解説>
●行審法7条2項の規定によれば、同法上、国の機関等が「固有の資格」において相手方となる処分に対して審査請求がされ、これに対する応答として何らかの裁決がされることは予定されていない⇒そのような処分について、同法に基づくものとして審査請求及び裁決がされたとしても、当該裁決は、同法に基づく審査請求に対する裁決とはいえず、「国の関与」から除かれる裁決等には当たらない。
⇒
本判決:
本件訴えの適法性に関し、本件埋立承認取消に係る「固有の資格」該当性(国の機関等がその「固有の資格」において相手方となる処分か否かの問題をいう。)が問題となるとした。
●「固有の資格」の意義及び判断
◎ 「固有の資格」は、一般私人が立ち得ないような立場(にある状態)をいうものと解されており、本判決も同じ。
◎ 「固有の資格」該当性の判断方法:
学説
①処分の名あて人が国の機関等に限られている場合
②処分に係る事務・事業について、国の機関等が自らの責務として処理すべきこととされ又は原則的な担い手として予定されている場合
⇒「固有の資格」に当たる。
but
③国の機関等が処分の名あて人となる場合に特例が定められていても、それが単なる用語変更にすぎない場合には、「固有の資格」に当たらない。
◎ 本判決:
①行審法は行政庁の処分に対する不服申立てに係る手続きを規定するものであり、
②「固有の資格」は国の機関等に対する処分がこの手続の対象となるか否かを決する基準
⇒「固有の資格」該当性の検討に当たっては、当該処分に係る規律のうち、当該処分に対する不服申立てにおいて審査の対象となるべきものに着目すべき。
埋立承認のような特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分については、その実施主体が国の機関等に限られているか否か、または、限られていないとすれば、当該事務又は事業を実施し得る地位の取得について、国の機関等が一般私人に優先するなど特別に取り扱われているか否か等を考慮して判断すべき。
国の機関等と一般私人のいずれについても、処分を受けて初めて同地位を得ることができるものとされ、かつ、当該処分を受けるための処分要件その他の規律が実質的に異ならない場合⇒処分の名称等について特例が設けられていたとしても、国の機関等が一般私人が立ち得ないような立場において当該処分の相手方となるものとはいえない。
~
前記の①~③の考え方を、本件の判断対象(特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分)に即して具体化したもの。
当該処分を受けた後の事務又は事務の実施の過程等における監督その他の規律に差異があっても、当該処分に対する不服申立てにおいて直接そのような規律に基づいて審査がされるわけではない⇒それだけで行審法の適用を除外する理由となるものではない。
~
行政庁の処分に対する不服申立てにおいては、当該処分を受けるための処分要件その他の規律に基づいて当該処分の適否及び当否が審査される一方、当該処分を受けた後の事務又は事業の実施の過程等が審査の対象となるものではない⇒後者の規律に差異があっても、当該処分について行審法の適用を除外する理由はなく、直ちに「固有の資格」該当性を肯定する根拠とならない。
●公有水面の埋立てに係る規律
国において埋立てをしようとするときは、
これを実施する機関において知事の埋立承認を受けるべきものとされ、また、埋立工事を竣功したときは、知事にこれを通知すれば足りる。
国の埋立てには、埋立許可に係る規定のうち、出願手続、審査手続、免許基準、処分の告示等の規定が準用されている一方、
免許料の徴収、工事の着手及び竣功の義務、埋立権の譲渡及び承継、竣功認可、違法行為等に対する監督、免許の失効等の規定が準用されていない。
←
公有水面は国の所有に属するものであり、国は公有水面についての埋立ての権能を含む本来的な支配管理権能を有している。
●埋立承認/取消しに係る「固有の資格」該当性
①公有水面埋立法は、国の機関と国以外の者のいずれについても、埋立ての実施主体となり得るものとし、また、知事の処分である埋立承認又は埋立免許を受けて初めて、埋立てを適法に実施し得る地位を得ることができるものとしている。
②埋立承認及び埋立免許を受けるための手続や要件等に差異は設けられておらず、「承認」と「免許」という名称の差異にかかわらず、当該処分を受けるための処分要件その他の規律は実質的に異ならない。
③国の埋立てには国以外の者が埋立てをする場合に適用される規定の一部が準用されていない
butこれらは、埋立免許がされた後の埋立ての実施の過程等を規律する規定であり、そのことによって、国の機関と国以外の者との間で、埋立てを適法の実施し得る地位を得るための規律に実質的な差異があるということではできない。
⇒
国の機関が一般私人が立ち得ないような立場において埋立承認の相手方となるものとはいえないとして、埋立承認は国の機関が行審法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。
埋立承認の取消しである本件埋立承認取消しについても、以上と別異に解すべき理由は見当たらない
⇒国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となったものということはできない。
判例時報2458
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