あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律2条1項の認定について、視覚障碍者以外の者を教育し又は要請する学校・養成施設について規制する同法附則19条1項の規定の憲法22条1項違反(否定)
①東京地裁R1.12.16
②大阪地裁R2.2.25
<事案>
平成27年、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律2条2項に基づき、厚労大臣に対し、同条1項の認定申請⇒視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難にならないようにするため必要があると認められるとして、法附則19条1項の規定により認定しない旨の処分⇒本件規定は職業選択の自由を害するもので、憲法22条1項等に違反し無効⇒各処分の取消しの訴えを提起。
<判断>
●合憲性判断基準について、
最高裁昭和50.4.30、最高裁H4.12.15を引用し、
一般に許可制は単なる職業活動の内容及び態様に関する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限
⇒
その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。
最高裁昭和47.11.22を引用し、
社会経済政策上の積極的な目的のための個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的・技術的な裁量判断を尊重せざるを得ず、ただ当該法的規制措置が当該目的のために必要かつ合理的な範囲にとどまるとの立法府の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理である場合に限って、これを違憲としてその効力を否定することができる。
●立法目的の合理性
・・・・本件規定の立法目的は、その立法時はもちろんのこと本件各処分時においても、一応の合理性がある。
●規制の必要性及び合理性
本件規定が晴眼者対象学校等の新設等を全面的に規制しているわけではなく、視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにすうrため必要があると認められる場合に限って規制⇒制約は限定的。
あん摩マッサージ指圧師となるために必要な知識及び技能を修得して免許を得ようとする視覚障碍者以外の者にとっても、既設の養成施設等においてその修得ができる⇒職業選択の自由に対する制約は限定的。
・・・・視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、視覚障碍者の生計の維持が著しく困難となることを回避するという目的達成のために本件規定による規制措置を設けることが必要であるとの立法府の判断が著しく不合理であるとはいえない。
本件規定は・・・目的達成のためのものとして、相応の合理性を有する。
・・・同判断を、文部科学大臣等の裁量判断に委ねたことにも、相応の合理性がある。
●本件規定による規制措置は、
視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、視覚障碍者の生計の維持が著しく困難となることを回避するという目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまるとの立法府の判断が、その裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であるということはできない
⇒
本件規定は憲法22条1項に違反するということはできない。
<解説>
●従前:規制立法に対する違憲審査基準については、従前、規制の目的が消極的目的のものか積極的目的の規制であるかによって分けて考える規制目的2分論:
消極的目的の規制⇒当該立法が発生の防止を図ることを目的とするところの社会的害悪の存在という立法事実が論証される必要があり、
規制の手段・態様は、その害悪の防止という目的達成のため必要最小限のものにとどまらないといけない。
積極的目的の規制⇒規制の目的の正当性、例えば経済的弱者の保護といった憲法上許容されるものであることが論証される必要があるが、
規制の程度・手段は、その目的達成のために必要かつ合理的なものであれば足りる。
規制目的の正当性が認められる⇒規制の程度・手段の選択は立法府の裁量に属するので、合憲性が推定され、違憲審査基準としては、立法府が裁量権を逸脱し、当該規制措置が著しく不合理であることが明白か否かという明白性の原則が妥当。
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最高裁は、規制目的が消極的目的か積極的目的かとうい点に特に触れず、論を展開。
判例解説:
規制目的二分論を単純に採用するのではなく、当該規制立法がどこまで立法事実に踏み込んだ司法判断がされるべき分野に属するのか、換言すれば、立法事実の把握、ひいては規制措置の必要性と合理性についての立法裁量をどの程度尊重すべき分野に属するのかを検討することこそが重要。
●
①事件、②事件の判決:
本件規定が視覚障碍者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、視覚障碍者の生計の維持が著しく困難となることを回避するという社会経済政策上の積極的目的(弱者保護の目的)から設けられたもの⇒経済的基盤の弱い小売商の保護を目的とする小売市場の許可規制に係る判例の判断の枠組みを踏襲。
判断の枠組みとしては立法府の裁量を広く認める立場を採りながら、そのあてはめの場面では立法事実にかなり踏み込んで立法目的の正当性・合理性、規制手段の必要性・合理性を判断。
判例時報2458
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