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2020年12月29日 (火)

麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に該当する範囲が問題となった事例

最高裁R1.12.20

<事案>
被告人が、Aとの間で、覚せい剤100gを代金80万円前払で譲り渡すこと、覚せい剤は80gと20gに分けて引き渡すことを約束し、
代金全額の支払を受けた後、その約束に係る覚せい剤の一部として、覚せい剤78.76g(「本件覚せい剤」)を譲り渡そうとしたが、未遂に終わった。

国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(「麻薬特例法」)2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」として薬物犯罪収益に該当する財産の範囲が問題。

<原審>
薬物犯罪収益となるのは本件覚せい剤の代金相当額であり、被告人は約束した覚せい剤のうちの8割分として本件覚せい剤を発送⇒薬物犯罪収益となるのは64万円⇒被告人から64万円を追徴。

<判断>
覚せい剤100gを代金80万円で譲渡するという約束に基づき、代金全額の支払いを受けるとともに、その約束に係る覚せい剤の一部(本件覚せい剤)について譲渡の実行の着手したという事実関係。
代金全額が麻薬特例法2条3項にいう「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」に当たる
追徴部部を破棄し、80万円を追徴。

<解説>
●判例・学説
組織犯罪法2条2項1号の「犯罪行為により得た財産」について、
最高裁判例①②③④
犯罪行為「により得た」とは、刑法19条1項3号(取得物件)の犯罪行為「によって得た」と基本的に同義であるとの理解。

判例③④:
条文の「文理」を指摘して、幇助行為又は犯罪行為を原因として取得したといえるかを考慮
規制薬物の譲渡事案で代金がたまたま前払で支払われていても、犯人が譲渡とを直接的な原因ないし手段として得たものであって、「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」であることに変わりはない。

「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産」:
構成要件該当行為を原因として得られたものであるが、
財産を得ることが構成要件中に含まれる必要はないし、純利益性も不要
薬物犯罪の犯罪行為と財産の取得に因果関係があることを意味する。

刑法上の取得物件については、対価物件(19条1項4号)との区別も念頭に置いて、
単に犯罪行為と因果関係があれば足りるのではなく、犯罪行為を手段として取得した趣旨、
犯罪行為と因果関係があればよいのではなく、直接取得された物に限るなどと解されている。

●本件
覚せい剤の譲渡においては、相手方に対して覚せい剤の所持を移転する一連の行為を開始して譲渡の実行に着手するのに先立ち、譲渡の約束(合意)が存在し、
「犯罪行為により得た」といえるか否かを判断するに当たっては、犯罪行為までに成立している約束の内容が考慮される。

本件:
犯罪行為である本件覚せい剤の譲渡の実行行為が、基となった約束の内容に沿うものではあるものの、未だその内容の一部を実現するものにとどまる場合にも、その約束に基づいて支払われた代金全体を、犯罪行為を原因なしい手段として得た財産とみることができるのか?
原判決:
判例①の判旨を引用し、
本件で追徴対象となる薬物犯罪集積は、薬物犯罪の犯罪行為である本件覚せい剤の譲渡未遂により得た財産の価額であり、本件覚せい剤の代金相当額に限られるとするのが相当。
vs.
判例②④が費用や送料分を控除すべきではないとしている⇒対象財産と譲渡の目的物との経済的な対価性は要求されてこなかった。
本判決:
覚せい剤100gを代金80万円で譲渡するという約束に基づき、代金全額の支払いを受けるとともに、その約束に係る覚せい剤の一部(本件覚せい剤)について譲渡の実行の着手したという事実関係。
⇒「代金全額が、その約束に係る覚せい剤の対価として本件譲渡未遂と結びついており、本件譲渡未遂を原因として得た財産といえる」

①規制薬物の有償譲渡に係る約束に基づいて財産を得た上で、その約束に沿う犯罪を行っている⇒代金全額がその約束に係る規制薬物の対価として一体的に結びついている。
②条文の文理、取得財産の没収・追徴の趣旨に沿う
ことが考慮。

取引形態や約束の内容によっては、代金全額が「犯罪行為により得た」といえるか改めて検討すべき場合もあり得る⇒事例判断。
上告審として是正しなければ著しく正義に反する点は、追徴部分のみ⇒部分破棄方式。

判例時報2458

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