特殊詐欺の無罪事案
大津地裁R1.9.27
<事案>
被告人が、共犯者らと共謀の上、被害者に対し、親族が至急現金を必要としているなどとうそを言い、現金の交付を受けてこれをだまし取ったもの。
同様の特殊詐欺4件が併合審理された事案。
被告人が本件に関与していたことを証明する客観証拠は存在せず、共謀等を証明する証拠は、共犯者A、Bの各証言という証拠構造。
<争点>
被告人の故意及び共謀
<判断>
A、Bの概ね整合する証拠に関し、
①各供述経過を踏まえると、Aが自らの刑責を軽減するために虚偽供述をし、捜査機関を通じてAの供述を知らされたBがそれに合わせて虚偽供述をした具体的可能性がある
②A、B証言のうち、被告人の本件への関与を示す中核部分につき、客観的に裏づけに乏しいばかりか、客観証拠と齟齬がある、
③A、Bが共通して複数のエピソードを証言したものの重要な点について一部食い違いがある
⇒
A、Bの証言はいずれも信用できず、他に、被告人の本件への関与を認めるに足りる証拠はない⇒全公訴事実につき被告人は無罪。
<解説>
●共犯者供述の信用性の基礎
共犯者供述の信用性判断は、一般的に、
客観的証拠等との整合性や、
迫真性、具体性、一貫性等のいわゆる注意則のほか、
共犯者という属性ゆえの虚偽供述の動機の可能性を念頭に置いて慎重に検討する必要(最高裁昭和43.10.25)。
本件:
捜査段階でAが当初供述していなかった被告人の関与を供述し始めたのは、検察官から、このままでは詐欺グループ内の末端ではないことになるなどと言われ、上位者としての刑責を回避したい意図が生じた結果であることが強くうかがわれる(Aが、真の上位者を被告人に置き換えて供述することが容易であるとの説示もある。)。
Bは、少年であり、供述弱者の要素があったと解されるところ、当初は被告人の関与を供述しておらず、検察官が、Aの前記変遷後の供述内容を「詳細に教示」した上でBを誘導し、「最終的に、これに迎合するBの供述を引き出し」たと認定。
捜査段階の供述は、
①弁護人の立会いのない密室で、取調官による一方的な質問を受けてなされる供述であり、
②捜査と異なる立場からの批判的検証にさらされていない。
このような取調べ環境の下で、年齢、知的能力・精神障害、性格等の観点から、自己の言い分を十分に表現できない、いわゆる「供述弱者」の存在が知られるようになってきている。
供述弱者に共通する特性:
見込み捜査等に基づく供述の押し付けや執拗な誘導に十分に対抗することができず、「取調官の期待」する供述調書が作成されてしまう危険。
取調官の期待:
①取調官の直接的な誘導や押し付けがされる場合のみならず、
②供述者が、取調べの苛烈さから逃れるなどのために、自白して捜査機関と協調する心境となり、取調官と供述者の間で、正解到達に向かう無意識な相互作用を生じた場合(取調官とのコミュニケーションの影響に起因する類型)を、意識して分析的に検討する必要があり、①②の混合型が想定できる。
●被告人供述の信用性に関する判断の要否
被告人のした弁解が一部不合理であった場合でも、不合理弁解には誰かをかばうなどの種々の動機が想定できる。
⇒
基本的に、被告人の不合理弁解には、当該供述部分が信用できないと捉えるのが近時の有力な考え方。
判例時報2454
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