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2020年11月11日 (水)

殺人について控訴審で無罪とされた事例

大阪高裁H30.10.31

<事案>
控訴審において、交際相手の女性Aの頚部を絞めつけて窒息死させたとして殺人を認定した原判決を事実誤認の理由で破棄し、無罪を言い渡した事案。

<争点>
①被告人の行為の実行行為該当性
②死亡との因果関係の有無
③殺意の有無
④正当行為該当性

<経緯>
弁護人は、当初、被告人の行為とAの死亡との因果関係は争わず、傷害致死の構成要件に該当することは認め、殺意はなく、過剰防衛が成立すると主張。
but
後日Aの死因を争うことになった。

裁判員裁判の公判期日の指定を取り消し、さらに公判前整理手続きを進め、公判整理手続に要した期間が2年以上となっている。

<原審>
死因について、
検察官が証人申請した法医学者B⇒死因は頚部圧迫による窒息死。
弁護人が請求した薬学者D⇒Aの胸腔内液から危険ドラッグと呼ばれる有害な薬物の成分が複数検出⇒薬物の影響により死亡した可能性を否定できない
Bの証言は、豊富な解剖経験に基づくものであって信用できる。
Dの指摘する窒息以外の死因の可能性は、抽象的な的なレベルにとどまる。
⇒窒息が死因。

殺人罪が成立。

<控訴審>
原判決が死因を窒息と認定したことから、いわば演繹的に他の争点についても結論を導いたと分析。
(たとえば、動機は明らかでないといしつつも、窒息死するほど頚部を圧迫し続けた⇒未必の殺意を認めた。)
死因について、再度本格的な事実の取調べを行っている。

原判決の死因の認定に対する控訴趣意書中の批判が、原審記録を検討しても、簡単に排斥することができないか又は簡単に排斥することは相当でないと判断されたため。

近時、控訴審が事後審であることが強調され(特に原審が裁判員裁判であるとより強いように思われる。)⇒控訴審における事実の取調べ(刑訴法393条)は制限的とされる。
その中で、どのような状況があれば事実の取調べをすべきかを考える上で参考になる。

●法医学者2名の証人尋問
原審以来のB
弁護人が新たに請求した医師F
B証言が、かなり一般的な話に終始
F証言は、具体的な観察に基づいた考察を重ねた感

●Aの死因が窒息であると判断する証拠はなく、原判決の事実認定自体が大きく揺らいでいる。
他の死因の可能性をも検討し、薬物中毒死又はこれを身体拘束を受けたことによる突然死の可能性を肯定
薬物使用の影響を肯定⇒被告人が供述するAの不自然な行動(突然被告人の手をAの口に入れて噛んできた)の可能性⇒被告人の供述の信用性も肯定(排斥できない)

●原判決:死因が窒息であると認定⇒そこからいわば演繹的に他の争点について判断。
死因が窒息でない⇒必然的に他の争点の判断にも影響を及ぼす。

被告人の供述(弁解)は排斥でjきず、これによれば、殺害の実行行為性も、殺意も認めることができず、被告人の行為に暴行や傷害の実行行為性を認めるきおとができても、正当防衛が成立。

<解説>
死因について、医学的・客観的に判定できるものと考えられがち
but
そのような事柄であっても深刻な争いになる場合がある。
それを誤ると重大な事実誤認を招くことがある。

ex.
湖東記念病院事件
大崎事件
このような場合、法医学等の専門的知見に頼ることになるが、専門家の間でも、遺体の所見1つとっても見解が分かれることがある。
(本件でも、遺体の顔面に鬱血があるという点で意見は分かれた)
また、総合判断である死因の判定には多くの推定、推論が入る。
1つの証拠を絶対視することなく、他の関連する証拠はなるべく多く取調べられる必要がある。
また、状況的な証拠との検討も必要

判例時報2453

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