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2020年11月22日 (日)

刑法96条のと官製談合防止法8条の「公正を害すべき行為」が問題とされた事例

大阪高裁R1.7.30


<事案>
ソフトウェアの開発等を目的とするC社の代表者であった被告人Aと、国立の高度専門医療研究センターの情報システム関連部署の部長職にあった被告人Bが、同センターの情報システムの運用保守業務の入札に関し、偽計を用いる等して公の入札等の妨害等をしたとされる事案。

入札②は一般競争入札(最低価格落札方式) として実施されたもの。
被告人Bが、入札の仕様書案の作成にあたり、C社以外の業者の参入が困難になり得る条項(本件2条項。システムの機能追加等を求める「管理システム条項」と、医療機関である仮想化構築につき一定以上の経験を有する複数の技術者の従事を求める「仮想化構築実績条項」とからなる。)と盛り込み、これを入札の用に供された。

入札③は公募型企画競争(企画提案書及びプレゼンテーションの評価による技術点と見積額から算出される価格点とを総合評価するもの)として実施。

当初、参加の意向を示したのはC社のみであり、発注者側の依頼を受けたC社が受注意思のない他の業者1社を参加させた(お付き合い入札)との経緯。

<条文>
刑法 第九六条の六(公契約関係競売等妨害)
偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律 第八条(職員による入札等の妨害)
職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、五年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。

<解説>
●「公正を害すべき行為」
刑法96条の「公正を害すべき行為」と官製談合防止法8条の「公正を害すべき行為」は同義と解されており、
公の競売、入札等に不当な影響を及ぼすべき行為をいい、公の競売、入札が公正に実施されていることに対し、疑問を抱かせる行為ないし正当でない影響を与える行為をいうものと解するのが一般。
vs.
構成要件が明確でない嫌いがあるとの指摘。
処罰範囲を限界づけるために一定程度の解釈の指針を提供する必要がある。
保護法益:
A:公務侵害説
〇B:競争侵害説:自由な価値形成のメカニズム(競争原理それ自体)が保護
C:施行者等利益侵害説

<判断・解説>

①本件2条項がC社以外の業者の参入を困難にし得るものであった
これを盛り込んだ目的は、C社に有利に、最も現実的な競争相手であった他の業者等に不利にするためである。

弁護人:本件2条項は調達の目的にとり必要であった
vs.
1審:
①特定の業者にとって当該入札を有利にし、又は不利にする目的で、
②現にそのような効果を生じさせ得る仕様書の条項が作成されたのであれば、
③当該条項が調達の目的に不可欠であるという事情のない限り「公正を害すべき行為」に当たる
との枠組みを示した上で、
本件2条項は不可欠といえない。

控訴審:
最低価格落札方式による入札であっても、より高度でより良いものの獲得を可能にする仕様書の条項を設定することは当然に許される
but
可能な限り自由な競争を確保することが求められる

特定の業者を有利にする目的や排除する目的で、参入障壁となる条項を設定することは「公正を害すべき行為」に当たるとした上で、
1審判決も同様の理解に立っており、
前記③は社会的相当性がある場合に違法性が阻却されることを示すもので、正当である。


入札③について、
被告人Aの主張:そもそも妨害の対象となるべき公正な競争が存在しない
被告人Bの主張:一社応札の場合に手続を中止するルールがなかったから、落札意思のない業者が入札に参加しても競争に影響を及ぼさず、助言・指導によって結果の違いは生じない

判断:お付き合い入札を一種の談合ととらえ、発注者側がこれに手を貸す行為は、たとえ元から自由競争が形骸化していても、自由な競争は見せかけにすぎないとの印象を一般に与え、入札等の公正さに対する信頼を損ない、入札への参加意思を削ぐことが明らか
自由競争の原理に対する具体的危険の発生を肯定できる。

競争侵害説に立ったとしても、入札制度に対する信頼感は自由競争原理をささえるものとして保護に値するとの理解。
当該入札の具体的帰結に違いがなければ、同説にいう「競争」が存在しないと解すべき理由はないとの理解を示すもの。

独禁法上の「不当な取引制限」に関する判断であるが、入札の運用が形骸化していても競争の存在を肯定できるとする最高裁H17.11.21

判例時報2454

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