不許可処分が刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に反して違法とされた事案
岐阜地裁R1.5.10
<事案>
岐阜刑務所に収容中の受刑者であるXが、Y(国)に対し、岐阜刑務所長が原告に対して行った、
①カラーレンズ付き眼鏡等を使用不許可等とした処分、
②新聞紙、雑誌及びXが作成した見取り図等の宅下げ等を不許可とした処分
はいずれも違法
⇒
各処分をいずれも取り消すこと、ならびに、岐阜刑務所長がXに対して各物品の使用や宅下げ等を許可することを義務付けることを求めるとともに、
国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。
<判断>
●Xが使用不許可処分の取消し等を求めた白内障対応カラーレンズ付き眼鏡について:
岐阜刑務所の内規のうち、眼鏡のレンズは原則として無色透明のものに限るとした上、医療上等の理由で着色レンズの使用の必要性が認められる者については例外を認める内規及び眼鏡の所持数量について、原則として種類ごとに1本と定めた内規について、
いずれも相当なものと判断。
but
医療上の必要性について、網膜色素変性症の場合に限るものと定めた内規については、・・・・刑事収容法42条1項柱書の趣旨に反する過度の制約であり、この内規に従ってカラーレンズ付き眼鏡1本を使用不許可とした岐阜刑務所長の処分は、その裁量を逸脱した違法な処分。
⇒
その使用不許可処分を取り消し、その使用を許可することを義務付けることとして、慰謝料の支払いを肯定。
●Xが求めた雑誌及び新聞紙の宅下げについて:
刑事収容法50条1号又は2号に該当するような事情が存在すると認めるに足りる証拠はなく、宅下げの前提行為となる新聞記事の切取り及び所持についても、これを不許可とすることは、原則として、受刑者である被収容者による保管私物お宅下げを許容している同条の趣旨を没却する可能性がある。
⇒
これらを不許可とした岐阜刑務所長の処分は、いずれも違法。
Y:閲覧後の新聞紙及び雑誌について、被収容者があらかじめ廃棄することに同意している場合は、宅下げの対象外となり、例外的に宅下げの対象とするには、宅下げの対象とすることを認めてもやむを得ない程度の相当の理由を要するべきであると主張。
vs.
被収容者があらかじめ閲覧後の新聞紙又は雑誌に係る個別の同意の撤回を求めないという取扱いは、あらかじめ廃棄に同意した被収容者の合理的な意思解釈に反するものであって、法的根拠に基づかず、被収容者の財産権を不当に制約するもの
⇒
宅下げ不許可処分を取り消し、宅下げを許可することを義務付け、慰謝料の支払も認めた。
Xが求めた他の眼鏡、眼鏡関連物品、X代理人弁護士が刺し入れようとした用紙、Xが作成した見取図等に係る処分については、刑事収容法に反しない。
<解説>
●刑事収容法42条1項1号は、眼鏡その他の補正器具については、被収容者には原則として自弁のものを使用させるものとされている。
本判決:
かかる規定を受けて刑務所内で定められた内規の適法性について判断⇒眼鏡の使用不許可処分の適法性を判断。
●被収容者の保管私物の宅下げについては、刑事収容法50条による規律。
同条各号に該当する事由がなければこれを許す。
but
被収容者が自費で購入するなどした雑誌及び新聞紙については、法務大臣訓令等により、被収容者の同意を得た上で閲覧後に廃棄させることを原則とし、その同意は包括的に得ることも差し支えないとされている。
⇒
岐阜刑務所においては、かかる訓令等を受けて、雑誌及び新聞紙の宅下げについては、相当の理由があるときのみこれを許可するという運用。
本判決:
前記訓令等については刑事収容法50条に抵触するものではないと判断する一方で、前記の岐阜刑務所内における運用については、被収容者の財産権を不当に制約する者と判断。
判例時報2453
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