少年の窃盗保護事件における、立件されていない大麻使用に関する事情の考慮が許容される限度を超えたものとして、違法とされた事例
大阪高裁R1.9.12
<判断>
● 本件において家裁に審判に付すべき事由として送致された事実は2件の窃盗のみであるところ、原決定は、処遇の理由の説示において、審判に付すべき事由として送致等がなされていない大麻の使用に関する事情を、2件の窃盗の事実とほぼ並列的に掲げて少年の要保護性を検討。
but
少年の大麻の使用に関する事情は、あくまで審判に付すべき事由として送致等はなされておらず、立件されたことのないもの。
少年の大麻の使用に関する事情は、窃盗の直接の動機になっているものではなく、本件の非行事実である窃盗とは性質が大きく異なる上、仮に立件されるならば、本件の非行事実である窃盗に劣らない程度に重大なものと評価される。
⇒
原決定の処遇の理由における説示は、非行事実ではないが処分に実質的に大きな影響を与える可能性のある大麻の使用に関する事情を、本件の要保護性の判断として許容される限度を超えて、あたかも非行事実であったかのように扱って処分を導き出していると解される⇒法令違反がある。
● 法令違反の決定に及ぼす影響について、
①原決定に至るまでの家庭裁判所における手続等に特に違法な点や調査等が不足しているような事情はない
②原決定は、大麻の使用に関する事情の部分を除いても、少年を少年院に送致する必要がある理由を一応示している
⇒
原決定の違法は決定に影響を及ぼすとまではいえない。
<解説>
● 少年保護事件ぬいおける審判の対象は、(1)非行事実と(2)要保護性の双方。
要保護性:①犯罪的危険性、②矯正可能性、③保護相当性の3つの要素で構成。
その中核をなすのが、①犯罪的危険性。
⇒
送致された審判に付すべき事由を要保護性の判断においてどのように扱いべきか?が問題となる、。
少年保護手続が再非行の危険性の解消を目的とする⇒再非行の可能性に関係する事情は、可能な限り多くを考慮の対象とすることが望ましい。
余罪は、非行事実の動機、常習性などに関係し、非行事実に基づく再非行の予測に影響することもある⇒要保護性判断における考慮対象とすべき必要性はある。
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非行事実も要保護性と並ぶ審判の対象
⇒
余罪を、非行事実と同様に実質的に処断する目的で考慮したり、非行事実の審理に関する手続保障や証拠法則等を潜脱する方法で認定したりすることなどは許されない。
● 少年法32条の法令違反について要求される「決定に影響を及ぼす」とは、
法令違反がなかったならば原決定は異なった主文になっていたであろうという意味で、法理違反と原決定の主文との間に具体的な因果関係が認められることが必要であり、理由に影響するだけでは当たらない。
特に本件のように、少年が少年院送致となり収容されている場合には、仮に原決定を取り消して差戻し又は移送をしても再度同じ保護処分に付されるならば、少年に対する矯正教育を一時中断するだけとなり、弊害は軽視できない。
判例時報2452
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