将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟の要件
最高裁R1.7.22
<事案>
陸上自衛官であるX(控訴人・被申立人)が、我が国と密接な関係にある他国に対する武力行使が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(「存立危機事態」)に際して内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を規定する自衛隊法76条1項2号の規定は憲法に違反する⇒Y(国)を相手に、Xが同号の規定による防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求めた。
1審 現に、Xの有する権利又は法律的地位に危険や不安が存在するとは認められない⇒本件訴えは確認の利益を欠き不適法であるとして、本件訴えを却下。
<原審>
Xは、本件訴えは、Xが本件防衛出動命令に従わなかった場合に受けることとなる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟である旨の釈明。
本件訴えは、実質的には、本件職務命令への不服従を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを本件職務命令ひいては本件防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める訴えの形式に引き直したもの
⇒
本件訴えが適法な無名抗告訴訟とみとめられるためには、差止めの訴えの訴訟要件である重大な損害の要件及び補充性の要件を満たすことが必要。
本件訴えは、いずれの要件も満たすから、適法な無名抗告訴訟⇒1審判決を取り消し、1審に差し戻す。
<判断>
上告受理申立てを受理し、
将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる甲的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は、差止の訴えの訴訟要件である「行政によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合には、不適法である。
⇒
原判決を破棄して事件を原審に差し戻した。
<解説>
●処分(本件では懲戒処分)の前提となる公法上の法律関係の不存在の確認を求める訴えは、当該処分を差し止める機能を有するもの。
前記訴えは、
A:処分の差止めの訴えと同様に、行訴法3条1項にいう「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(抗告訴訟)に当たり、無名抗告訴訟と位置付けられるのか、
B:行訴法4条後段が定める「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」、すなわち、実質的当事者訴訟に当たるのかが問題。
最高裁H24.2.9:国旗国歌訴訟最判:
公立高等学校等の教職員らが、東京都に対し、校長の職務命令に基づいて卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱し又はピアノ伴奏をする義務がないことの確認を求めた訴えにつき、
行政処分に関する不服を内容とする訴訟として構成⇒将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべき、
その違反が懲戒処分の処分事由との評価を受けることに伴い、勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益・・・の予防を目的とする訴訟として構成⇒公法上の当事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴え(行訴法4錠)として位置付けることができる。
~
処分の前提となる法律関係の不存在の確認を求める訴えにつき、当該訴えが処分による不利益の予防を目的とするものであるか、処分以外の不利益の予防を目的おとするものであるかによって、無名抗告訴訟であるか実質的当事者訴訟であるかを区別。
●一般に、行訴法3条の規定は、無名抗告訴訟が適法な抗告訴訟として許容される可能性を否定するものではないと解されているが、いかなる場合に適法な無名抗告訴訟を提起することができるのかが問題。
長野勤評事件最判(最高裁昭和47.11.30):
処分を受けてからこれに関する訴訟のなかで事後的に義務の存否を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合でない限り、処分の前提となる義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできない。
~
but
その後、差止めの訴えを法定した「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」による行訴訟の改正
⇒平成16年改正後においては、同じく処分の予防を目的とする抗告訴訟である差止めの訴えの訴訟要件との関係において検討すべき。
国旗国歌訴訟最判:
差止の訴えと同様に補充性の要件を満たすことが必要
特に法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を満たすか否かが問題。
当該事案においては、法定抗告訴訟として職務命令違反を理由としてされる懲戒処分の差止めの訴えを適法に提起することができる⇒前記確認の訴えについては補充性の要件を欠き、不適法。
本判決:
予防的無名抗告訴訟は、
①当該処分に係る差止めの訴えと目的が同じ
②その効力についても、請求が認容されたときには行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点で差止めの訴えと異ならない
③確認の訴えを形式で差止めの訴えに係る本案要件の該当性を審理の対象とするものということができる
⇒
行訴法の下において、差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により、これが許容されているものとは許されない。
⇒
予防的無名抗告訴訟は、差止めの訴えの訴訟要件の1つである蓋然性の要件(行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること)を満たさない場合には不適法となる。
●
①重大な損害の要件
②補充性の要件
③蓋然性の要件
判例時報2452
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