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2020年10月11日 (日)

原子力委員会と経済産業大臣の規制権限の不行使と国賠請求(否定)

山形地裁R1.12.17

<事案>
東北地方太平洋沖地震及びそれに引き続く福島第一原子力発電所から放射性物質が外部に放出された事故の発生時に福島県内に居住等していたXらが、
本件原発を運営していたY1(東京電力)に対して、
主位的に不法行為の損害賠償請求権に基づき
予備的に原賠法3条1項に基づき
また
Y2(国)に対して、国賠法1条1項に基づき
本件事故によって被った損害(慰謝料)は各X(口頭弁論終結時に死亡していた者を含む)についてそれぞれ2000万円になるとして、
そのうち1000万円および弁護士費用110万円の連帯支払等を求めた。

<争点>
Y2(原子力委員会及び経済産業大臣)が地震及び津波対策並びにシビア・アクシデント(SA)及びステーションブラックアウト(SBO(全電源喪失状態))対策に関して規制権限を行使しなかったことが違法か。

<判断>
●規制権限不行使の違法性について
①経済産業大臣には、地震及び津波対策並びにSA及びSBO対策としてXらが主張する措置を実施するように電気事業法39条1項に基づく技術基準に関する省令を変更し、同法40条に基づく技術基準適合命令を発出する権限があった
電気事業法39条及び40条の規定は、行政庁の専門技術的裁量を許容しているといえ、前記各規定による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下においてその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となり
将来発生する被害の予測に基づいて行使されるべき規制権限の不行使が問題になる場合、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くかどうかの判断においては、
規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質等、被害の重大性及び切迫性、予見可能性、結果回避可能性、現実に実施された措置の合理性、規制権限行使以外の手段による結果回避の困難性(被害者による結果回避可能性)、規制権限行使における専門性、裁量性等の規制権限の講師が問題となる当時の具体的事情の一切を考慮すべきである。
③地震及び津波対策に係る規制権限不行使の違法性について、前記②で列挙された各事情をそれぞれ検討したうえで、経済産業大臣が地震及び津波対策に関して規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない
④SA及びSBO対策に係る規制権限の不行使の違法性についても、経済産業大臣が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。

結論として、Y2の規制権限の不行使が違法であるとはいえない。

<解説>
●国の規制権限不行使の違法性について
最高裁H26.10.9を参照引用した上で、
その調査官解説を参考にしたものと考えられる。

●地震及び津波対策に係る規制権限の不行使について:
本判決:
Y2は平成14年頃の時点において本件原発の敷地高さ以上の高さ以上の高さの津波が本件原発に到来することを予見することが可能であった
また、行使すべき規制権限の根拠法規(電気事業法)の保護法益に照らし、適時かつ適切な規制権限の講師が規定されていた。
but
本件原発で重大な事故が発生する危険の切迫性はそこまでのものではなく、Y2は何らかの対応自体はしてきており、要急性の程度に照らしてその対応は不合理とはいえない

結果回避可能性について、
Xらが措定する結果回避措置を執るように規制権限を行使していたとしても本件事故の発生を防止することができた可能性は否定できないという程度にとどまる

Y2が規制権限を行使しなかったことが許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない

●SA及びSBO対策に係る規制権限の不行使について、
地震及び津波対策に係る規制権限の不行使が違法とはいえない

より抽象度の高いSA及びSBO対策に係る規制権限の不行使につちえも許容さされる限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。

判例時報2450・2451

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