« 鍼施術⇒脊髄損傷⇒後遺障害(責任肯定事例) | トップページ | 自らの意思で覚せい剤を摂取したと推認することはできない⇒覚せい剤使用について無罪、(検察官の)求釈明義務違反の主張を否定した事案。 »

2020年9月 4日 (金)

障害者が自殺⇒その雇用管理が問題となった事案

札幌地裁R1.6.9

<事案>
食品会社Yにおける勤務開始当初からうつ病にり患していた亡Aは、Yでの在職中に自殺。
X1(亡Aの母)及びX2(亡Aの妹)は、亡Aの上司であったCの発言及び亡Aの要望に応じて業務量を増加させなかったことによって亡Aが極度に強い心理的負荷を受けてうつ病の程度を増悪させたことが亡Aの自殺の理由⇒損害賠償請求

<主張>
①主位的には使用者責任、予備的には安全配慮義務違反を根拠とする債務不履行責任に基づく亡AのYに対する損害賠償請求権をX1が相続したこと、
②亡Aの死亡により、Xらが精神的苦痛を被った

<争点>
①Cの亡Aに対する注意義務違反の有無
②Cの注意義務違反と亡Aの自殺との間の因果関係
③Xらの損害及びその額

<判断>
●争点①
◎Cの亡Aに対する「障害者の雇用率を達成するため」に亡Aを雇用したとの発言(「本件発言」)が、亡Aに心理的負荷を与えないようにすべき注意義務に違反するか

Cが本件発言をしたと認定し、
うつ病にり患している者は心理的負荷に対する脆弱性が高まっており、ささいな心理的負荷にも過大に反応する傾向
Cは、亡AがYに雇用される前から亡Aがうつ病位にり患していることを認識していた

Cには、業務上、亡Aがうつ病にり患していることを前提に、心理的負荷を与える言動をしないようにする注意義務を負っていた

本件発言は、自己のYにおける存在価値について悩んでいた亡Aに対する配慮を欠き、亡Aに心理的負荷を与えるもの
⇒注意義務違反を肯定

◎Cが、亡Aから業務量に関する合理的配慮を求める旨の申出があった場合に、具体的な措置の内容を検討し、当該措置を実施し、又は、当該措置を実施できないときにはその旨を理由と共に伝えるべき注意義務

Cは、亡Aから業務量に関する申出があった場合には、現在の業務量による心理的負荷の有無、程度を検討し、対応が不可能であれば、そのことを説明すべき注意義務を負っていた。
but
Cは、亡Aの申出を放置せず、具体的な解決策を検討して事項しており、その後も、亡Aの申出に対応することが不可能な状況ではなかった

注意義務違反を否定

●争点②
亡Aは、Yに在職中にうつ病の程度を悪化させた。
but
争点①の注意義務違反にyるうつ病の程度の悪化及び自殺の因果関係につき、本件発言後に業務量の増加を検討する説明したCの対応に対する亡Aの反応及び認識を踏まえ、
本件発言による心理的負荷が継続していたとはいえない
⇒本件発言と亡Aの自殺との因果関係を否定。

<解説>
●精神障害を有しない労働者との関係では心理的負荷を与えない言動であっても、うつ病にり患している労働者との関係では心理的負荷を与えるものがあり得ることを含意。

業務量が過少であったためにうつ病が悪化したことが問題となった事案
一般に、使用者は、労働者に対してどの程度の業務量を割り当てるかについての裁量権を有している。
but
当該労働者の能力とは大きくかい離した程度の低い業務量しか割り当てなかった場合、それが当該労働者に屈辱感等を与え、心理的負荷を与えることはあり得る。
本判決は、この点を踏まえた上で、障害者の雇用における雇用管理の要請(障害者基本法19条2項)、精神障害を有する者の心理的負荷に対する反応の仕方を踏まえて、Cの注意義務を設定。
but
ここでの判断対象は、
亡Aが担当していた業務量がどの程度であり、それが亡Aの能力に見合ったものであったかという点ではなく、
亡Aからの申出に対してCがしかるべき対応を取ったかという点。

●本判決:
Cの注意義務違反による心理的負荷が継続している場合には、当該注意義務違反と亡Aの自殺との間の因果関係が認められることを前提に、本件ではそのような心理的負荷が継続していたとはいえない⇒因果関係を否定

判例時報2447

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 鍼施術⇒脊髄損傷⇒後遺障害(責任肯定事例) | トップページ | 自らの意思で覚せい剤を摂取したと推認することはできない⇒覚せい剤使用について無罪、(検察官の)求釈明義務違反の主張を否定した事案。 »

判例」カテゴリの記事

労働」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 鍼施術⇒脊髄損傷⇒後遺障害(責任肯定事例) | トップページ | 自らの意思で覚せい剤を摂取したと推認することはできない⇒覚せい剤使用について無罪、(検察官の)求釈明義務違反の主張を否定した事案。 »