軽微な非行事実については第1種少年院送致とされた事案
東京高裁R1.7.29
<事案>
少年(当時18歳)が、仮眠中の交際相手の女性に対し、首をつかんで無理矢理起こし、あごを手でつかむ暴行を加えた。
<原決定>
本件非行につき、その態度自体から、相手に配慮することなく暴力を用いてまで自分の要求を押し通そうとする自己本位な態度がうかがわれる。
①少年が同種非行により保護観察処分を受けた後も母親に対する暴力的な言動が絶えなかったこと、
②少年は、母親は交際相手など親密な相手に対しては、一方的に依存して自己の過大な期待を押し付け、それがかなわないとなると、一転して暴力的な言動に出るという傾向が顕著であるという資質上の問題があり、その問題性は前件後に高まっている、
③母親が家を出た後、保護観察所や福祉担当者が少年に対する指導を行ったのに、少年が指導を受け入れる姿勢を見せなかったこと
⇒
少年の要保護性は極めて高い
⇒少年を第1種少年院に送致。
<決定>
原決定の判断は相当。
<解説>
非行事実の軽重と要保護性との関係:
大半の事件では非行事実の軽重と要保護性の程度は対応・相関する。
A:非行事実が軽微な場合には、要保護性が高いことのみを理由に少年院送致のような重大な自由な制約を伴う保護処分を言い渡すことはできない。
B:刑罰における罪刑均衡と同様な意味での非行事実と保護処分の均衡は要求されない。
←少年保護手続の目的
いずれの見解でも、
非行事実の軽重は、単に行動と結果だけではなく、非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断される
⇒
一見すると、非行事実は警備であるのに収容保護など重い処分を決定したとみられる裁判例についても、非行事実の行為と結果だけをみれば軽微といえなくはないものの、比較的近い時期に同種の非行歴、保護観察処分があるなど、背景事情も含めて検討した場合、軽微な非行と評価するのは相当でない事案が多いとの指摘。
本件:
比較的近い時期になされた同種非行について保護観察処分を受けてから本件非行に至るまでの少年の行動など、原決定や本決定で検討されている事情は、常習性の有無など本件非行事実の軽重や少年の要保護性の態度を判断する上で重要な事情。
判例時報2444
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