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2020年8月26日 (水)

コインハイブ事件(有罪)

東京高裁R2.2.7

<事案>
自己の運営するインターネット上のウェブサイト(音楽情報共有サイトA)の閲覧者が使用する電子計算機をもってその同意を得ることなく仮装通貨の採掘作業(マイニング)を実行させるコインハイブというプログラムコード(スクリプト本体)が蔵置された海外のサーバーコンピュータにアクセスさせ同プログラムコードを取得させて国内のサーバーコンピュータ上のAを構成するファイル内に同プログラムコードの呼出しタグ(「本件プログラムコード」)を蔵置させ保管した被告人の行為につき、不正指令電磁的記録保管罪(刑法168条の3)に該当するとして起訴。

<原審>
反意図性は認めたものの、不正性を満たさない⇒無罪

<判断>
原判決を破棄して有罪

<主張>
弁護人:
①アクセス制御機能によって管理されていない他人の計算資源を使用することは、現行法においても何ら禁止されていない(不正アクセス法2条4項)
検察官はコインハイブによる閲覧者の電子計算機への「使用権」の侵害が不正性の根拠と強弁するが、「使用権」の「侵害」なるものがいかなる法理に基づき本罪の評価に影響するのか判然としない。
②検察官は、特定の動作が使用者に不利益に働く余地がある場合には使用者の同意を要するというのがユーザー保護あるいはプログラムの信頼確保のための当然の原則。but法務省のウェブサイトでもそれは遵守されていない。
③検察官は、不正性の判断において専らウェブサイト閲覧者の利益損失を重くみて設置者の利益損失は考慮に値しないとの独自の価値観を力説。
but
インターネットは互恵的に情報共有するための媒体。
④検察官は、呼出しタグを本件プログラムコードとするが、マイニングを実施するスクリプト本体を本件プログラムコードを捉えているかのよう⇒被告人は当該スクリプトを保管しておらず、無罪。

<規定>
刑法 第一六八条の二(不正指令電磁的記録作成等)
正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3前項の罪の未遂は、罰する。

刑法 第一六八条の三(不正指令電磁的記録取得等)
正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

<解説>
電子計算機(コンピュータ)による情報処理はプログラムによって行われるところ、そのプログラムは、容易に広範囲の電子計算機に拡散する上、その機能全てを使用者が認識するのは困難

電子計算機のプログラムが使用者にとって信頼に値するといえるためには、電子計算機による適正かつ円滑な情報処理ひいては電子計算機の社会的機能を確保することが不可欠。

使用者の意図に反し不正な電子計算機のプログラムの作成、提供、供用、取得及び保管といった各段階の行為を処罰することにより、電子計算機のプログラムが電子計算機の使用者の「意図に沿うべき動作をせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令」を与えるものではないという社会一般の信頼(社会的信頼)を保護し、電子計算機による適正かつ円滑な情報処理ひいては電子計算機の社会的機能を確保するため、刑法168条の2以下に係る不正指令電磁的記録に関する罪が新設された。

刑法168条の2以下の規定の趣旨
プログラムに対する社会的信頼の保護電子計算機による適正円滑な情報処理の確保という観点から当該プログラムの社会的許容性を判断。

反意図性当該プログラム使用者からみて許容し得るかという視点で許容不可とされた場合に不正性(社会的許容性)が問題視される建付

不正性の場面では使用者以外のより広い視点から当該プログラムを許容し得るかどうかを判断するとの選択もあり得る。

電子計算機による適正円滑な情報処理力確保の点をより広い意味合いで捉えると社会基盤としての役割を担うに至ったコンピュータとインターネットの社会的機能を持続発展させるとの視点から本件プログラムコードの不正性を論ずることも考えられる。

コインハイブのスクリプト本体が蔵置されたサーバーコンピュータにリンクされる呼出しタグ(HTMLコード)はそれ自体マイニングの能力を持たずスクリプト本体がないとその機能を発揮し得ない⇒この呼出しタグをスクリプト本体と同等のものと当然視してよいか?

判例時報2446

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