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2020年7月 3日 (金)

GPS捜査と違法収集証拠排除が問題となった事案

旭川地裁H31.3.28

<事案>
被告人が、病院の専用駐車場の梁の溝の内側に覚せい剤を隠匿所持していた⇒営利目的覚せい剤所持の罪に問われた事案。

<争点>
警察官らは、被告人を検挙するに当たり、令状の取得及び被告人や管理人の事前承諾のないまま、
被告人車両にGPS測位機及びGPSロガーを取り付け、位置情報を検索・取得する捜査(GPS捜査)、
本件車両を撮影録画する捜査(本件監視捜査)、
本件車庫内に立ち入り、梁の溝内の不審物の有無を確認する捜査(本件立入り捜査)
を行った。

各捜査の違法性が争われた。

<判断>
本件GPS捜査(①)は、強制の処分に当たり違法。
同捜査により直接得られた証拠について、違法収集証拠として、証拠能力を否定。
but
弁護人が証拠排除を求めた証拠の一部につき、本件GPS捜査によって直接得られた証拠と密接に関連する証拠とは認められない⇒証拠能力は否定されない。

本件監視捜査(②)、本件立入り捜査(③)は、嫌疑の存在や程度、必要性、相当性を認め、任意捜査としていても、相当な範囲のもの⇒適法。

<解説>
●任意捜査と強制捜査の区別
最高裁昭和51.3.16:
法律の根拠規定がある場合に限り許容される捜査において用いられる「強制手段とは・・・個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、
右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない」

強制手段にあたらない有形力の行使であっても、・・・必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる程度において許容されるものと解すべきである」
と判示。

形式上任意捜査として行われた処分であっても、強制処分まで至ってしまった場合や、任意処分の枠内に収まっているものの、相当性を欠く場合には、違法となる。

●違法収集証拠の排除について
最高裁昭和53.9.7:
「証拠物の押収等の手続きに、憲法35条及びこれを受けた刑法の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである」
その後裁判例が積み重ねられ、
証拠排除の判断基準については、
違法の重大性を中心に、
排除相当性を補充的に(違法の重大性が認められても、証拠の重要性等を総合して例外的に否定するという形で)考慮することとされ、
いわゆる派生証拠については、重大な違法のある手続(先行手続)と密接な関連を有するか否か(関連性)により判断されるとの基準(最高裁H15.2.14)。

●GPS捜査について
最高裁H29.3.15:
個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵害する捜査方法であり、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない「強制の処分」に当たり、令状がなければ行うことができない。

本判決:
GPS捜査の一般的性質(個人の意思を制圧し、憲法の保障する重要な法的利益を侵害)に加え、
本件GPS捜査の具体的な状況(実施期間、位置情報取得の回数、捜査機関の目的のほか、被告人のプライバシーに対する配慮や「移動追跡装置運用要領」に定められた正式な手続の履践の有無等)を詳細に認定し、
違法の程度が証拠排除されるべき程度に重大なものであることを示し、証拠能力が否定されるとした。

①本件GPS捜査について、その中止後の捜査担当者の変更や、別の行動確認による覚せい剤の隠匿場所の絞り込み等により、本件GPS捜査を伴う被告人の行動確認の結果により得られた情報(本件捜査情報)が監視カメラの撮影対象選定の唯一の理由であったわけではなく、
②本件捜査情報がなかったとしても、本件車庫が撮影対象に選定された可能性は小さくなく、
③本件捜査情報を殊更に利用しようとする意図もうかがわれない
密接な関連性を認めなかった

●その他の捜査
各捜査の対象となった本件車庫が、外部からの観察や病院関係者以外の立ち入りが可能かつ容易類型的に見て、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとはいえないと判断。

各捜査を任意捜査としてみても、
①前記の事情から、容ぼう等を観察されることを受忍せざるを得ず、
②プライバシーに対する合理的な期待が存在するとはいえない

制約が加えられる法的利益の保護すべき程度がそれほど重大とはいえない
⇒昭和51年決定の判断枠組みに照らし、手段として相当な範囲にあると判断。

判例時報2441

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