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2020年7月23日 (木)

殺人について犯人性が否定された事案

東京高裁R2.1.23

<事案>
公訴事実の要旨:
被告人が、夜間、路上において、面識のない被害者に対し、殺意をもって、持っていた刃物で被害者の胸部、腹部を突き刺すなどして殺害した。

<争点>
被告人の犯人性

検察官 被告人の犯人性を推認させる間接事実として、
(1)被告人の眼鏡とたばこの箱が現場に落ちていた【現場遺留物】
(2)被告人居住アパートの駐車場に、被害者の血液が付着した自転車(被告人の所有物ではない)があった【被害者血付着自転車】
(3)被告人が当夜(本件犯行日の夜から翌日未明まで)に外出し、帰宅後すぐに衣服を捨てた
(4)被告人の年齢、体格等が犯人のそれと矛盾しない【体格等】

<原審>
間接事実(1)(2)(4)は認定できる。
(2)については、被害者の血液が本件犯行時に自転車に付着した事実も認定。
間接事実(3)は認定できない。

(1)現場遺留物:
関係証拠から認められる遺留時間帯は約6時間と幅がある
本件現場は被告人の生活圏
⇒眼鏡と犯行とを結びつける証拠がない以上、被告人が酒に酔って転倒し、眼鏡を遺留して立ち去ったなどの反対仮説が成り立ち得る
推認力はそれなりに強い程度に止まる

(2)被害者血付着自転車:
駐車場の位置や施錠状況⇒アパート住人や近隣住民が犯人である可能性が高い。
自転車所有者の体格及び外見も犯人像と矛盾しない
but
アパートに入居したばかりで愛用の自転車を所有する被告人が、他の者と比べて被害者血付着自転車を使用した可能性が高いとはいえない
推認力は低い

(4)体格等:
目撃者が語る特徴はありふれたもので、これと矛盾しないとしても、被告人の犯人性を推認させる力は弱い。

総合評価しても、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは少なくとも説明が極めて困難であるとはいえず、被告人の犯人性は立証されていない。

<判断>
原判決には原審証拠及び論理則、経験則等に照らして不合理な点はない
⇒検察官の控訴を棄却。

<解説>
犯人性を争点とする間接事実型の事案について、大阪母子殺害放火事件最判(H22.4.27)

検察官:眼鏡等の慰留に関する被告人弁解の不合理性について判断を示すべきであると主張。
判断:仮に被告人弁解が不合理であったとしても、同弁解が信用できないことを意味するにすぎず、眼鏡等と犯行の結びつきが強まるわけではない。
自己の刑事責任を否定する被告人の弁解は、基本的に、反対仮説の可能性ないしこれに繋がるものと位置付けるのが一般的な考え方であるところ、本判決もこれと同様の立場に立つもの。

判例時報2443

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