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2020年7月 2日 (木)

運転者が誰かが争われた事案

千葉地裁H31.2.26

<事案>
被告人(A)とB、Cは、自動車盗を共謀⇒駐車してあったZ所有の自動車(P車)を摂取⇒Zが発見し立ちふさがった⇒Zをボンネットに乗り上げさせて奏功し、路上に転落させて殺害。
検察官は、P車を運転してZに衝突させたのは被告人であるとして、被告人には号と殺人罪が成立BとCには、Q車に乗っていたもので窃盗罪の範囲で共同正犯が成立するとして勾留請求⇒被告人もBも黙秘。
Bは自分の公判で窃盗の事実を認めた。

被告人とBは別件(Q車の窃盗等)で勾留。
被告人には接見禁止が付されていたが、Bはそれぞれの弁護人を介して被告人に手紙を送り、被告人はその返信を送った。
被告人は、検察官に申し出て取調べを受け、P車を運転していたのは自分であることを認めた。
Bは窃盗罪で有罪判決。

被告人は、公判前整理手続で、それまでの主張を撤回し、運転していたことを否認
公判期日でも、P車を運転していたのはBであり、自分はQ車の助手席に乗っていたと主張。

<差戻前1審>
BCDの証人尋問で、
BC:P車を運転していたのは被告人であり、BはQ車の助手席に座っていた。
D:被告人とBの話の内容からP車を運転してたのは被告人と思った。
but
裁判所:
Bには事故は犯罪を被告人に押し付けるために虚偽の供述をする動機がある
②Bが被告人に宛てた手紙⇒Bは弁護人らを利用して共犯者に対する連絡を行っていて、Cらに働きかけることも可能⇒CとDもその働きかけを受けて虚偽の供述をした可能性がある。
これらの証言から被告人が運転していたと認定することはできない。

検察官は、被告人が自白した際の取調べの録音録画記録媒体の取調べを請求
but
①自白の概要が被告人質問で明らかになっている
②共犯者の供述の信用性が決めてとなる
記録媒体で再生される被告人の供述態度を見て供述の信用性を判断するのは容易ではない
⇒却下。

<控訴審>
原審が記録媒体の証拠請求の却下は支持。
but
Bから被告人宛ての手紙に対して被告人が返信した手紙など(Bが保管しており、第1審判決後に任意提出したもの)を取り調べて、Bと被告人の手紙のやりとりについて検討⇒Bが被告人に対し運転者の身代わりを働きかけていたものではなく、Bの働き掛けでCとDが虚偽供述をした可能性もない⇒BCDの供述を信用することができ、P車を運転したのは被告人であることが認められる

①原審は殺意の有無については判断を示していない
②これについて判断した上で量刑する必要
⇒原裁判所に差し戻し。

<差し戻し審>
差戻前1審でのBCDの証人尋問及び被告人質問の内容が録画された更新用記録媒体、控訴審での被告人の供述が記録された公判調書を取調べ。
検察官と弁護人双方から新たに請求された被告人とBとの間でやりとりされた手紙も取調べ。
B、Cについて再度証人尋問を実施し、被告人質問も実施。

新たな証拠調べをして証拠関係の変動があった⇒事実認定に関して破棄判決の拘束は受けないと判断。
P車を運転していた者に殺意があったことを認定し、運転者が被告人か否かの検討

BCDの供述はあるが、これと被告人供述とを対比して検討するだけでは信用性を決し難い。
⇒Bと被告人との手紙のやりとりの趣旨の検討が必要。

Bの手紙(第1審弁5)には「K市の件、再逮捕の件は全てA主導で行った事件であり、私Bが『実はAの言いなりである』という旨の供述をすること」などの記載

Bの手紙は、被告人に自動車盗の首謀者の立場を負わせようとするもので、P車の運転者の身代わりを依頼しようとしたものではない。
被告人はBから働きかけを受けたからではなく、自分の判断で自白に至ったものと推認し、被告人の手紙の中のP車運転を自認するかのような記載も真意に基づくもの。

被告人がP車を運転。

<解説>
●刑事手続きが開始された後における被告人や関係者らの間の手紙のやりとりは、事件の前あるいは渦中における手紙のやりとりと性質を同じくするとは限らない。
特に被告人や手紙の相手が身柄拘束中⇒手紙の内容を刑事手続担当者側が知り、それが刑事手続で用いられることになることを作成者が意識して作成する可能性。

●手紙の証拠能力に関する判例:
・共犯とされる者の有罪判決が確定し、その服役中に同人とその妻との間でやりとりした手紙は、公判における両名の証言や手紙の外観・内容等から特に信用すべき情況の下に作成されたものと認められる限り、刑訴法323条3号によって証拠とすることができる(最高裁昭和29.12.2)。

実務での扱い:
一般的にいえば、手紙は定型的に高度の信用性を備えているとはいえない⇒刑訴法323条3号ではなく、刑訴法321条1項3号又は322条1項により証拠能力を判断すべき。
but
手紙の作成経過、形式、内容等から刑訴法323条1号、2号に準ずる高度の信用性が認められる特殊な場合⇒同条3号により証拠にすることができる。

被告人から弁護人に宛てた手紙について、刑訴法322条1項で採用した事例。
被告人が密輸出の予備として貨物をある村に送付した事件で、知人が同地における海上保安分の警備状況について暗喩を用いて書き、被告人に送った手紙が取り調べられた事案において、その手紙が、記載された供述内容の真実性の証拠に供せられたものではなく、内容の真偽と無関係に、その供述がなされたこと自体が要証事実⇒その作成の真正が証明される限り、刑訴法321条1項3号の要件を充足すると否とにかかわりなく、これを証拠とすることができる(福岡高裁)。

その他の裁判例。

判例時報2441

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