中央防波堤埋立地付近における特別区の境界を確定した事例
東京地裁R1.9.20
<事案>
東京都の特別区であるX(大田区)とY(江東区)との間で、東京湾内に所在する中央防波堤埋立地付近における区境界に争い⇒地自法9条1項の調停によっても境界が確定しなかった⇒Xが、同条9項に基づき、境界の確定を求める訴えを提起。
<判断>
①本件は、江戸時代のおおよその区分線を知り得ない場合に当たる。
②本件係争地域の歴史的遠隔、明治以降における関係区等の行政権行使の実情、国又は都の行政機関の管轄、住民の社会・経済生活上の便益、地積などの事情は、いずれも直ちに境界を定められるほど決定的な事情とはいえない⇒地勢上の特性に基づき、等距離線(両区の水際戦への最短距離が等しい点を結んだ線)を基礎として、これを適宜修正して境界線を確定するのが相当。
その等距離線の基礎となる水際線は、現在、行政区域として確定している水際線とするのが相当。
これに本件係争地域の利用状況等による修正を加え、XとYとの境界を本判決別紙1の図面のC’-C-F-G線と確定する。
<解説>
●地自法9条9項は市町村の境界画定を調停前置の行政訴訟としており、同法283条1項により、この規定は東京都の特別区にも適用される。
都道府県を異にする市区町村で境界に紛争がある場合も、公有水面のみに係る紛争⇒地自法9条の3の
それ以外⇒同法9条の
手続によるべきのと解されている。
●最高裁昭和61.5.29:
茨城県真壁郡真壁町(現在の茨城県桜川市)と茨城県筑波郡筑波町(現在の茨城県つくば市)が筑波山頂付近の境界を争った事案。
町村の境界を確定するに当たっては、当該境界につきこれを変更又は確定する右の法定の措置が既にとられていない限り、まず、江戸時代における関係町村の当該係争地域に対する支配・管理・利用等の状況を調べ、そのおおよその区分線を知る場合には、これを基準として境界を確定すべき・・・。
右の区分線を知り得ない場合には、当該係争地域の歴史的沿革に加え、明治以降における関係町村の行政権行使の実状、国又は都道府県の行政機関の管轄、住民の社会・経済生活上の便益、地勢上の特性等の自然的条件、地積などを考慮の上、最も衡平妥当な線を見いだしてこれを境界と定めるのが相当
~
江戸時代における、筑波郡に属する地足院(筑波山神社を管理していた寺院)の境内地と真壁郡羽鳥村との境界であったと認定した線をもって両町の境界線とした原審の判断を正当と是認。
最高裁H10.11.10:
和歌山県海南市と和歌山県和歌山市が和歌山マリーナシティ付近の境界を争った事案。
江戸時代におけるおおよその区分線を知ることはできない⇒等距離線主義(その線上のどの点においても、その点から両市町村の水際線上の最も近くにある点への距離が等しいような線を境界とする考え方)に基づき、
「公有水面上の境界を顕在化、具体化する必要が現実化した時点」である和歌山マリーナシティ埋め立て地旧第二区埋立前の水際線を基礎とした等距離線に修正を加えた線をもって両市の境界線とした原審の判断を正当とした。
福岡高裁那覇支部H27.8.20:
沖縄県豊見城市と沖縄県那覇市が那覇空港南側沖合の公有水面付近の境界を争った事案。
江戸時代に作成された地図に引かれている「海方切」と呼ばれる直線は、現在の市町村に相当する「間切」の区分線であった⇒その「海方切」の線をもって両市の境界とした。
判例時報2442
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