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2020年7月24日 (金)

公有水面埋立法42条1項に基づく埋立ての承認取消処分と「固有の資格」

福岡高裁那覇支部R1.10.23

<事案>
沖縄防衛局は、沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を同県名護市辺野古沿岸に建設するための公有水面の埋立てについて、当時の県知事Aから公有水面埋立法(公水法)42条1項の承認を受けていたが(本件承認処分)、本件承認処分は前県知事Bの死亡に伴う知事職務代行者であるC副知事からの委任を受けたD副知事の名義で取り消された(本件承認取消処分)。

沖縄防衛局が、行審法2条、地自法255条の2第1項1号に基づき、公水法を所管するY(国土交通大臣)に対し審査請求(本件審査請求)⇒Yは本件承認取消処分を取り消す旨の裁決(本件裁決)。
X(沖縄県知事)は、本件裁決が違法な「国の関与」に当たる⇒地自法250条の13第1項に基づき、国地方係争処理委員会に対し審査の申出⇒同委員会は、本件裁決が「国の関与」に当たらず、同委員会の審査の対象にならないとして、同申出を却下する旨の決定。

Xは、前記決定に不服があるとして、地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に本件裁決の取消しを求めて本件訴えを提起。

<争点>
地自法251条の5第1項の訴えの対象は「国の関与」とされているところ、地自法245条は、「国の関与」について、国の行政機関が一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為などと定めつつ、そこから「審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為」を除外する(同条3号)。
行審法に基づく裁決は前記「裁決」に当たる⇒本件裁決が「国の関与」といえるかが問題となる。

<主張>
本件裁決には、
(1)本件承認取消処分が、沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となり、行審法が適用されない処分であるにもかかわらず(行審法7条2項)、これを対象としてされたという違法
(2)本件承認取消処分に係る「処分庁」(行審法4条)はD副知事であり、本件承認取消処分は「都道府県知事の処分」(地自法255条の2第1項1号)に当たらず、Yが審査庁になり得ないにもかかわらず、Yによってされたという違法
(3)Yによりその権限等を著しく濫用して裁決されたという違法
がある
⇒本件裁決は、これらの違法を理由に前記「裁決」に当たらず、「国の関与」に含まれる。

<判断>
●本件裁決が「国の関与」に当たるとはいえない⇒却下

●(1)について
国の機関がその「固有の資格」において相手方となり、行審法の適用がない処分について審査請求がされ、同じく国の機関である審査庁の裁決により当該処分の取消が命じられた場合、裁決の形式が採られていたても、実質的には裁決以外の方法による「国の関与」が行われたと同視でき「裁決」に当たらない。
but
埋立ての承認は国の機関がその「固有の資格」において相手方となる処分ではない。
この点は埋立承認を取り消す処分(本件承認取消処分)も同様。

●(2)について
審査請求時にはその委任(副知事への委任)が終了し、Xがその権限を有し、D副知事の「処分庁」としての立場も承継⇒本件承認取消処分は法定受託事務に関する「都道府県知事の処分」に当たり、公水法の所管大臣であるYが審査請求すべき行政庁となる(地自法255条の2第1項1号)

<解説>
●「固有の資格」に関する判断について
◎ 行審法7条2項は、国の機関等に対する処分で、当該機関等に対する処分で、当該機関等がその「固有の資格」において相手方となるものには、行審法の規定は適用しないとする。
この「固有の資格」は、一般人では立ち得ず、国の機関等であるからこそ立ち得る特有の立場などと定義
一般には、処分の名宛人が国の機関等に限定されている場合や、名宛人が限定されていなくても国の機関等が事業等の原則的な担い手として想定⇒「固有の資格」で受ける処分とされている。
but
形式的には国の機関等のみ異なる取扱いがされているとしても、それが単に規制の特例にすぎず、国の機関等が実質的に私人と同様の立場に立つと解される場合⇒「固有の資格」で受けるものではない。

◎ 本判決:
埋立の承認は、国の機関のみを名宛人とするものの、一般私人を名宛人とする埋立の免許とその性質・効果や要件が共通⇒これと本質的に異なるものではなく、「固有の資格」において相手方となるものではない。
両処分には、処分後の埋立ての監督や所有権成立の手続に関する相違があるが、「固有の資格」性は特定の処分につき行審法の救済を認めるか否かに関する基準であり、処分自体の性質・効果を中心に判断されるべき⇒処分後の手続に関する前記相違は「固有の資格」該当性に関する判断を左右するものではない。

●「処分庁」に関する判断
行審法に基づく審査請求:
一定の場合を除き、「処分庁」(処分をした行政庁)の最上級行政庁に対してするとされているが(行審法4条4号)、
これに対する特例として、法定受託事務に係る「都道府県知事の処分」等を対象とする場合は、当該処分に係る事務を規定する法律等の所管大臣に対してするとされている(地自法255条の2第1項1号)
本件審査請求時には、処分をした行政庁の処分権限が消滅し、県知事がその権限を有してた⇒そのような場合において「処分庁」及び「都道府県知事の処分」をいかに解するかが問題。

本判決:
行審法46条1項及び52条2項などの規定⇒行審法は行政不服審査手続において「処分庁」が現に当該処分に関する権限を有していることを想定している。
処分をした行政庁の処分権限が審査請求時までに消滅等⇒現に処分権限を有する行政庁が「処分庁」としての立場を承継していると判断

判例時報2443

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