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2020年6月 9日 (火)

クレプトマニア(窃盗症)の事案

東京高裁H30.8.31    
 
<事案>
スーパーでの万引き事案で、被告人(昭和15年生まれの女性)は、前刑執行猶予中であり、罰金刑や再度の執行猶予を選択できるかが争点に。
被告人は、いわゆるクレプトマニア(窃盗症、病的窃盗)として治療を受けていた者。
 
<原審>
(1)被害は少額で弁償もされているが、大胆かつ手慣れた犯行態様や、前科関係⇒罰金刑選択の余地はない
 
(2)
①被告人は、医師の指示にもかかわらず受診の間隔を開け、自助グループのミーティングにも出席しないこともあった。
被告人と夫は、被告人の盗癖を子らに明らかにせず、唯一の同居人である夫も不在にすることが少なくない。
⇒更生の努力を怠った。

②被告人には、病的窃盗による衝動抑制の障害に加え、薬物依存症・強迫性障害による精神的混乱が相当程度影響していたとの医師の意見書
but
後者がどのように本件犯行に影響したか明らかではなく、
前者は改善の機会を怠った結果として本件に至った⇒情状として大きく酌量できない。

(3)本件犯行後、被告人は、入院治療を受け、反省の情を深め、夫が仕事を辞め、長女が同居するなど監督体制を構築。
but
被告人は、前刑後に可能だった再犯防止の努力を怠ったと評価するほかなく、本件犯行後の事情を大きく評価することhできない。

(4)治療が更生に有用としても、行為責任を基本とする刑罰の必要性に優先することはない。

年齢や認知症の点を考慮しても、再度の執行猶予を付すべき「情状に特に酌量すべきものがある」(刑法25条2項)とまでは認められない。

懲役10月(求刑・懲役1年6月)の実刑 
 
<判断> 
●原判決には、次のように重要な情状事情に関する認定・評価に誤りがあり、情状事実を適切に評価すれば、裁量により再度の執行猶予を付する余地もあった。 

医師による入院治療を勧められたのに、被告人が断った事実までは認定できない。
被告人は、期間が開きがちではあるが、一応定期的に通院治療を受けており、努力をしていたことは否定できず、本件を被告人が更生への努力を怠った結果と一方的に評価することは誤っている⇒せいぜい被告人の努力が十分とは言えないという評価が相当

②原判決は、病的窃盗による衝動制御の障害があることを前提としながら、その程度や本件犯行への影響について判断していない
それが本件犯行に大きな影響を与えたとは認められないが、責任非難を若干軽減することを前提に量刑判断すべき

実刑に処したことが量刑判断における裁量を逸脱したとまでは認められない
 
●but
原判決後の事情として、
①自宅の建替え工事が完成し、夫、長女と同居生活が始まった
②被告人の認知症が進み、要介護1の認定を受けた
③被告人は通院治療を続け、自助グループへの参加も続けている

原判決後、再犯防止、改善更生を図るための環境が実際に整ったことも考慮

現時点では、再度の執行猶予を付するのが相当となった。

いわゆる2項破棄をして、懲役1年、5年間執行猶予、保護観察付きの判決。 
 
<解説> 
クレプトマニア(窃盗症、病的窃盗)は、精神疾患で、
その基本的特徴は、「個人的に用いるためでもなく、またその金銭的価値のためでもないのに、物を盗みたいという衝動に抵抗するのに繰り返し失敗すること」等と説明。 
多くは、クレプトマニアによる衝動抑制の困難性を、量刑上どkまで重視するかが争われ、具体的には、執行猶予を付すか、特に再度の執行猶予を付すかが問題
判例時報2438

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