刑訴法299条の4、299条の5の合憲性
最高裁H30.7.3
<事案>
殺人等被告事件について、検察官がした証人等の氏名等の代替開示措置に関する特別抗告事件。
<事案>
殺人等被告事件について、検察官がした証人等の氏名等の代替開示措置に関する特別抗告事件。
合計16名の証人について、検察官が、刑訴法299条の4第2項により、被告人及び弁護人に対し、その住所を知る機会を与えず、住居に代わる連絡先として神戸地検姫路支部の連絡先を知らせる措置(本件代替開示措置)⇒刑訴法299条の5第1項により、裁判所に対し、本件代替開示措置の取消しを求めて裁定請求⇒棄却⇒即時抗告も棄却⇒特別抗告。
<主張>
刑訴法299条の4、299条の5は、被告人の証人審問権を保障した憲法37条2項前段、公平な裁判所の裁判を受ける権利を保障する憲法37条1項に違反するとともに、無罪推定を受ける権利を保障した市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)14条2項に違反。
<規定>
刑訴法 第二九九条[証人等の氏名等開示と証拠等の閲覧]
検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。・・・
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
<判断>
刑訴法299条の4、299条の5は、被告人の証人審問権を侵害するものではなく、憲法37条2項前段に違反しない。
刑訴法299条の5は、受訴裁判所の裁判官に係属中の被告事件について予断を抱かせるものではない⇒前提を欠く。
その余は単なる法令違反の主張であり、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
<解説>
●相手方に対し証人等の氏名及び住居を知る機会を与えることにより、証人等に対する加害行為等のおそれを生じさせる場合もあり得る。
⇒
刑訴法299条の5、299条の5は、証人等に対する加害行為等を防止するとともに、証人等の安全を確保し、証人等が公判審理において供述する負担を軽減し、より充実した公判審理の実現を図るための、より実効性のある方策を規定したもの。
●本決定:
①証人等の氏名又は住居を知る機会を与えられなかったとしても、それにより直ちに被告人の防御に不利益を生ずることとなるわけではなく、
②被告人及び弁護人は、代替的な呼称又は連絡先を知る機会を与えられていることや、証人等の教諭ツ録取書の取調べ請求に際してその閲覧の機会が与えられることその他の措置により、証人等と被告人その他の関係者との利害関係の有無を確かめ、予想される証人等の供述の証明力を事前に検討することができる場合があり、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないこととなる場合があることを指摘。
①開示された証拠から、証人が被告人側の知っている特定の人物であることが分かる場合、
②証人が、たまたま現場に居合わせて事件を目撃した者であって、被告人等と利害関係を有しないことが明らかな場合
~
代替開示措置がとられたとしても、証人等と被告人その他の関係者との利害関係の有無を確かめ、予想される証人等の供述の証明力を事前に検討することができ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがない場合がある。
代替開示措置がとられたとしても、弁護人が、証人等との面談を要請し、検察官が、証人等にその旨連絡して、証人等と被告人その他の関係者との利害関係の有無等を確かめ、予想される証人等の供述の証明力を事前に検討することができ、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないこととなる場合がある。
⇒
代替開示措置がとられたとしても、それにより直ちに被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるということになるわけではない場合がある。
●訴法299条の4、299条の5は、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときには代替開示措置をとることができない旨規定。
被告人の防御に実質的な不利益がを生ずるおそれがあるとき
~
予想される証人等の供述の証明力を事前に検討することができず反対尋問を実効的に行うための準備をすることができないこと。
●条件付代替措置によっては加害行為等を防止できないおそれがあるときに限り代替開示措置をとることができる旨規定。
弁護人が選任されている場合において条件付与等措置によっては加害行為等を防止できないおそれがあるときとして、
①被告人に証人等の氏名又は住居が知られた場合には、当該証人等に対する深刻な加害行為等のおそれが強く、これを確実に防止するためには、弁護人の過失により被告人に証人等の氏名又は住居を知らせてしまう可能性も排除しておく必要がある⇒弁護人に対しても知らせないこととせざるを得ないような場合。
②被告人が、弁護人に対し、証人等の氏名又は住居を教示するよう強く求めている場合など、弁護人が被告人に対してこれらを秘匿することに困難が予想される場合
③弁護人が、被告人の所属する暴力団組織に、被告人の事件の証拠の内容を漏らしているなどの事情があり、弁護人と暴力団組織の癒着が疑われる場合
等
判例時報2440
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