« 被告人の記名のみがあり署名押印がない控訴申立書による(刑事)控訴申立ての効力(無効) | トップページ | 運転者が誰かが争われた事案 »

2020年6月30日 (火)

強制わいせつ未遂事件で、被告人のわいせつ目的を客観的事情から推認し、その補強として、5日後に同種の強制わいせつ行為に及んだ事実を用いた事案(違法性なし)

東京高裁R1.5.15

<弁護人の主張>
①原判決が第1事件でわいせつ目的を認める唯一の積極的事情として、第2事件で被告人がわいせつ行為に及んだことを摘示⇒余罪による故意の認定であって違法。
②原審が、証人Eを、被告人が第2事件の2日後に女性を追従していた状況等の立証趣旨で取り調べた⇒被告人の悪性格を立証して、本件におけるわいせつ目的を認定しようとした⇒法的関連性を欠き違法
③被告人の自白調書は任意性に疑いがある

<判断>
●主張①について
原判決は、第1事件の客観的事情(夜間、停車させて自車近くの人気のない場所で、高校の制服を着て自転車で帰宅途中のAに対し、包丁を突き付けて、「騒いだら殺す」「ドライブに行こう」と述べたこと)をもとに、財物奪取、誘拐、あるいは暴行のみの目的の可能性を排斥して、わいせつ目的を推認し、
その上で、数日後の第2事件で被告人がわいせつ行為に及んだことを補強として用いたもの

第2事件でのわいせつ行為を唯一の積極的事情としたものではないし、
第2事件で認定した事情を不当な予断偏見をもって第1事件の認定に供したものでもない

その認定に違法はない。

●主張②について
D証人の取調べについては、
原審弁護人が女子高生一般に対する仕返しの目的であったと主張
⇒被告人がこれと矛盾する行動をとっていたことを主な立証趣旨としたもの

原判決も、第1事件につき被告人の弁解が信用できない理由の1つとしてD証言を用いている
前記各証人は、その証言によりわいせつ目的を直接認定する趣旨で取り調べられたものではない

●主張③について、
公判前整理手続きにおける被告人質問及び取調べ警察官の尋問の各結果から、任意性を失われる脅迫等があったとは認められない。

<解説>
●同種前科による犯人性の立証

最高裁H24.9.7(「平成24年最判」):
前科証拠は、自然的関連性があることに加え、証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに証拠能力が肯定され、
前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合は、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが基礎に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに証拠能力が肯定される。

最高裁H25.2.20(平成25年最判):
平成24年最判の考え方を類似事実にも適用し、
前科に係る犯罪事実や前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実をとすることは、これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは、許されない。

被告人が前科に係る犯罪や他の犯罪を行った事実から、
(1)被告人がこれと類似する犯罪を行う犯罪校傾向を推認し、そこからさらに、
(2)起訴事実についても、被告人がその犯罪傾向に基づいて犯行に及んだと推認するという
2重の推認
vs.
①その根拠はいずれも不確かなものであり、
②他方で「犯罪傾向」という認定、評価がもたらす心証への影響は大きく、不当な予断、偏見を当たるおそれが強い
⇒同種前科・類似事実による証明を制限。

被告人の犯罪傾向を介した推認過程は不確実かつ弊害が大きいので許されない

犯人性であっても、類似事実の「顕著な特徴」及び本件との「相当程度の類似性」から推認するのであれば、犯罪傾向を介するものではないから、許容され、
主観的要件であっても、類似事実により被告人の犯罪傾向を介して推認することは許容されない

●類似事実による主観的要件の証明
東京高裁H25.7.16:
原判決が、
①深夜、歩行中の女性に強姦目的で車両を衝突させて傷害を負わせた強姦致傷と、
②その約1時間35分後に、歩行中の女性に車両を衝突させ、車内で強姦した監禁・強姦致傷を認定したことを是認し、
①の強姦目的につき、
近接した日時場所において、被告人が深夜に1人歩きの若い女性を狙って類似した態様で引き続いて両事件を起こしたことを前提とすれば、②の犯行動機、目的等から、①の強姦目的を推認することは許容される(ただし、原判決が、被告人が②を行ったことを①の犯人性の推認に用いた点は是認できないとした)。

成瀬論文:
「人が近接した日時場所において類似の行為を繰り返す場合、途中でその目的が変わることは通常考え難い」という経験則を用いて強姦目的を推認。
被告人の犯罪傾向を介さない推認として許容される。

東京高裁H30.1.30:
原判決は、小児2名の誘拐につき、わいせつ目的を認定した理由として、
①被告人は、多数回、本件小児2名を含む小児にわいせつ行為を繰り返していた(併合審理されていた)、
②小児を性的対象とするウェブサイトを閲覧していた、
③精神鑑定をした医師が、被告人は小児を性的欲求の対象にしていたと証言、
④被告人が誘拐の翌日頃、本件小児の1名に強制わいせつ行為に及んだ
という点を挙げた。

同高裁:
①:被告人が同種のわいせつ行為を反復している⇒主観的な傾向を認定し、これを本件におけるわいせつ目的という主観的な事実を推認する1つの根拠とした認定方法は、実質的根拠を有する。
②③:小児性愛障害の性的嗜好を有する者がわいせつ目的を持つ傾向を有することは明らか⇒それをわいせつ目的を認定する1つの根拠とすることは、十分な合理性を有する。


成瀬論文:
同事件において被告人の強制わいせつ等の犯罪傾向を推認することは合理的であり、かつ、その犯罪傾向から誘拐時のわいせつ目的を推認することも、誘拐した事実と翌日頃1名にわいせつ行為をした事実を前提に、考えうる限られた目的(わいせつ、身代金、養育等)の中から推認するにとどまる
誤認の危険性は小さく合理的であり、犯罪傾向を介する推認を例外的に許容していい場合

●本件で仮に被告人が黙秘

被告人供述に対する反証ではなく、わいせつ目的の積極立証として、E、Dの証人尋問が請求されることも考えられる。
そのときは、証人の採否や立証趣旨(被告人の性犯罪の傾向、わいせつ行為をする動機等)が問題となる。

●最近の裁判例:
東京高裁H31.4.5:
店舗で陰茎を露出した公然わいせつにつき、原審が、故意の立証のために、以前に被告人が類似行為をしたので注意したという証人を取り調べたことに違法はない。

東京高裁R1.12.17:
被告人が3か月の感覚で2回、同僚らに睡眠導入剤を投与して運転させ、死傷事故を起こさせた事案で、
原判決が被告人は1回目で死亡事故を起こさせながら2回目に及んでおり、1回目の死亡が予想外であったとは考えにくい⇒これを1回目の殺意認定の理由に挙げた点につき、適切は言い難いと説示。

●自白調書の任意性について、原審は、公判前整理手続で被告人質問と取調べ警察官の尋問を行っている(採用は公判期日)。
裁判員対象事件で任意性審理を行う時期につき、従来は公判期日とする見解が大勢であったが、近年は、取調べの録音・録画記録媒体を視聴することも念頭に、公判前整理手続で行うという見解も有力。

判例時報2441

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 被告人の記名のみがあり署名押印がない控訴申立書による(刑事)控訴申立ての効力(無効) | トップページ | 運転者が誰かが争われた事案 »

判例」カテゴリの記事

刑事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 被告人の記名のみがあり署名押印がない控訴申立書による(刑事)控訴申立ての効力(無効) | トップページ | 運転者が誰かが争われた事案 »