市の経営する競艇事業の予算に違法な内容⇒前記予算を調整した市長等の損害賠償責任
最高裁R1.10.17
市の経営する競艇事業
<事案>
鳴門競艇従業員共済会から鳴門競艇臨時従業員に支給される離職せん別金に充てるため、鳴門市が平成22年7月に共済会に対して補助金を交付⇒給与条例主義を定める地方公営企業法38条4項に反する違法、無効な財務会計上の行為⇒
市の住民であるXらが、地自法242条の2第1項4号に基づき、Y1(市長)を相手に、当時の市長の職に在ったAに対して損害賠償請求をすることを求めるとともに、Y2(企業局長)を相手に、当時の企業局長に在ったB及び当時の企業局次長の職に在ったCに対して損害賠償請求をすること等を求めた住民訴訟。
<第1次>
本件補助金の交付が給与条例主義の趣旨に反するとはいえない⇒Xらの絵支給をいずれも棄却すべきものとした。
<第1次上告>
本件補助金を交付した当時、臨時従業員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する旨を定めた条例の規定はなく、本件補助金の交付は、給与条例主義を潜脱し、地自法232条の2に違反する違法なもの
⇒第1次控訴審判決を破棄し、高松高裁に差し戻し。
<原審>
①Aは、市長として、違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を怠り、本件交付決定を行った。
②Bは、企業局長として、違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を怠り、本件交付決定を行った。
③Cは、企業局長を補助すべき立場にある企業局次長として、違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を怠った
⇒
Y1を相手にAに対して損害賠償請求をすること求める請求並びに、
Y2を相手にB及びCに対して損害賠償請求をすることを求める
各請求をいずれも認容。
<判断>
●Aの損害賠償責任を否定し、Y1を相手にAに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した原判決を破棄し、Xらの控訴を棄却する旨の自判。
市の経営する競艇事業の臨時従業員等により組織される共済会から臨時従業員に対して支給される離職せん別金に充てるため、市が共済会に対してした補助金の交付が、地自法204条の2及び地方公営企業法38条4項の定める給与条例主義を潜脱するものとして違法であり、前記事業の予算に前記補助金の支出という違法な内容が含まれていた場合において、
次の①~③など判示の事情の下では、市長が、市に対し、前記予算を調整したことを理由として、不法行為に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
①前記支出が違法であるのは、臨時従業員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する条例上の根拠がないこと等によるものであり、前記予算の項目や明細から前記支出が違法であることが明らかであったわけではない。
②市長が前記予算の調整に当たり、前記支出が違法であると現実に認識していたとはうかがわれない。
③前記補助金を交付するか否かは前記事業の管理者が決定するものであり、前記事業における収入及び支出の大枠を定めたものである前記予算の調整により前記補助金が 交付されたという直接の関係にあるということはできない。
● Bの損害賠償責任を肯定し、Y2を相手にBに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した原審の判断を是認し、この点に係るY2の上告を棄却。
● Cの損害賠償責任を否定し、Y2を相手にCに対して損害賠償請求をすることを求める請求のうち、
①怠る事実に係る相手方に対して損害賠償請求をすることを求める請求については、これを認容した原判決を破棄し、Xらの控訴を棄却する旨を自判し、
②本件交付決定の決裁に関与したことが違法な財務会計上の行為であるとして、これを行った当該職員に対して損害賠償請求をすることを求める請求については、原判決を破棄し、同請求に係る訴えを却下する旨の自判。
市の経営する競艇事業の管理者が前記事業の臨時従業員等により組織される共済会に対する違法な補助金の交付決定をした場合において、次の①~③など判示の事情の下では、前記管理者を補助すべき立場にある職員が、市に対し、前記決定に関与したことを理由として、不法行為に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
①前記決定は、前記管理者がその権限に基づいて判断したものであり、前記職員は、前記補助金を交付するか否かを決定する権限を有しない。
②前記職員は、共済会の会長として前記補助金の交付を申請したが、前記職員が共済会の会長であったのは、共済会の規約が前記職員の職に在る者を会長とする旨を定めていたからである上、前記職員が前記補助金の違法性を認識しながらあえて前記の申請をしたといった事情はうかがわれない。
③前記職員が前記決定の決裁に関与したために前記管理者が前記補助金を交付するか否かについての判断を誤ったといった事情はうかがわれない。
<解説>
●市長(A)について
予算の調整:予算の編成までの一切の行為を含む。
地自法:予算調整権限は、地方公共団体の長に専属。
地方公営企業法:管理者に対して代表権を含む非常に広範な権限を付与しているが、地方公営企業の「予算を調整すること」は、地方公共団体の長の権限として留保している。
but
①地方公営企業の運営が管理者に委ねられ、地方公共団体の長の管理者に対する指示権が限定されていること
②管理者が「予算の原案」や「予算に関する説明書」を作成し、地方公共団体の長に送付するとされていること等
⇒
地方公営企業の予算の具体的内容な、管理者が定めるものであり、同法24条2項の文理に照らしても、地方公共団体の長は、管理者が作成した予算の原案を出来る限り尊重することが予定されているものと解される。
本件補助金の交付が給与条例主義を潜脱⇒本件予算は、違法な支出内容を含むものであった。
but
前記の地方公営企業法の規定の趣旨⇒地方公共団体の長が、地方公営企業の予算の調整に当たり、管理者の作成した予算案の内容につき、個々の支出内容の適法性を確認すべき義務を負っているとまでは言い難いように思われる。
地方公営企業における予算は、議会の議決を経て、企業の収入及び支出の大綱を定めるものとして成立するものにすぎず、本件補助金は、飽くまでも本件交付決定に基づいて交付されるもの。
●当時の企業局長(B)の損害賠償責任
①臨時従事者に対する離職せん別金の支給が長年にわたって行われており、市企業局は、前記支給に関する交付要綱を定めるなどして、前記支給を前提として競艇事業を運営してきた。
②臨時従業員に対する離職せん別金の支給が労働協約を前提とするものであったこと等
⇒
当時の企業局長(B)としては、市及び市企業局における従前の運用を踏襲して本件交付決定をしたということができる。
but
管理者である企業局長は、企業管理規程や従前の運用にかかわらず、業務執行の適正を確保すべき地位にある
⇒Bの過失の有無を検討するに当たり、従前の運用に従ったという事実を過度に重視することはできない。
<事案>
鳴門競艇従業員共済会から鳴門競艇臨時従業員に支給される離職せん別金に充てるため、鳴門市が平成22年7月に共済会に対して補助金を交付⇒給与条例主義を定める地方公営企業法38条4項に反する違法、無効な財務会計上の行為⇒
市の住民であるXらが、地自法242条の2第1項4号に基づき、Y1(市長)を相手に、当時の市長の職に在ったAに対して損害賠償請求をすることを求めるとともに、Y2(企業局長)を相手に、当時の企業局長に在ったB及び当時の企業局次長の職に在ったCに対して損害賠償請求をすること等を求めた住民訴訟。
<第1次>
本件補助金の交付が給与条例主義の趣旨に反するとはいえない⇒Xらの絵支給をいずれも棄却すべきものとした。
<第1次上告>
本件補助金を交付した当時、臨時従業員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する旨を定めた条例の規定はなく、本件補助金の交付は、給与条例主義を潜脱し、地自法232条の2に違反する違法なもの
⇒第1次控訴審判決を破棄し、高松高裁に差し戻し。
<原審>
①Aは、市長として、違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を怠り、本件交付決定を行った。
②Bは、企業局長として、違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を怠り、本件交付決定を行った。
③Cは、企業局長を補助すべき立場にある企業局次長として、違法な本件補助金の支出を回避すべき職務上の義務を怠った
⇒
Y1を相手にAに対して損害賠償請求をすること求める請求並びに、
Y2を相手にB及びCに対して損害賠償請求をすることを求める
各請求をいずれも認容。
<判断>
●Aの損害賠償責任を否定し、Y1を相手にAに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した原判決を破棄し、Xらの控訴を棄却する旨の自判。
市の経営する競艇事業の臨時従業員等により組織される共済会から臨時従業員に対して支給される離職せん別金に充てるため、市が共済会に対してした補助金の交付が、地自法204条の2及び地方公営企業法38条4項の定める給与条例主義を潜脱するものとして違法であり、前記事業の予算に前記補助金の支出という違法な内容が含まれていた場合において、
次の①~③など判示の事情の下では、市長が、市に対し、前記予算を調整したことを理由として、不法行為に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
①前記支出が違法であるのは、臨時従業員に対して離職せん別金又は退職手当を支給する条例上の根拠がないこと等によるものであり、前記予算の項目や明細から前記支出が違法であることが明らかであったわけではない。
②市長が前記予算の調整に当たり、前記支出が違法であると現実に認識していたとはうかがわれない。
③前記補助金を交付するか否かは前記事業の管理者が決定するものであり、前記事業における収入及び支出の大枠を定めたものである前記予算の調整により前記補助金が 交付されたという直接の関係にあるということはできない。
● Bの損害賠償責任を肯定し、Y2を相手にBに対して損害賠償請求をすることを求める請求を認容した原審の判断を是認し、この点に係るY2の上告を棄却。
● Cの損害賠償責任を否定し、Y2を相手にCに対して損害賠償請求をすることを求める請求のうち、
①怠る事実に係る相手方に対して損害賠償請求をすることを求める請求については、これを認容した原判決を破棄し、Xらの控訴を棄却する旨を自判し、
②本件交付決定の決裁に関与したことが違法な財務会計上の行為であるとして、これを行った当該職員に対して損害賠償請求をすることを求める請求については、原判決を破棄し、同請求に係る訴えを却下する旨の自判。
市の経営する競艇事業の管理者が前記事業の臨時従業員等により組織される共済会に対する違法な補助金の交付決定をした場合において、次の①~③など判示の事情の下では、前記管理者を補助すべき立場にある職員が、市に対し、前記決定に関与したことを理由として、不法行為に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
①前記決定は、前記管理者がその権限に基づいて判断したものであり、前記職員は、前記補助金を交付するか否かを決定する権限を有しない。
②前記職員は、共済会の会長として前記補助金の交付を申請したが、前記職員が共済会の会長であったのは、共済会の規約が前記職員の職に在る者を会長とする旨を定めていたからである上、前記職員が前記補助金の違法性を認識しながらあえて前記の申請をしたといった事情はうかがわれない。
③前記職員が前記決定の決裁に関与したために前記管理者が前記補助金を交付するか否かについての判断を誤ったといった事情はうかがわれない。
<解説>
●市長(A)について
予算の調整:予算の編成までの一切の行為を含む。
地自法:予算調整権限は、地方公共団体の長に専属。
地方公営企業法:管理者に対して代表権を含む非常に広範な権限を付与しているが、地方公営企業の「予算を調整すること」は、地方公共団体の長の権限として留保している。
but
①地方公営企業の運営が管理者に委ねられ、地方公共団体の長の管理者に対する指示権が限定されていること
②管理者が「予算の原案」や「予算に関する説明書」を作成し、地方公共団体の長に送付するとされていること等
⇒
地方公営企業の予算の具体的内容な、管理者が定めるものであり、同法24条2項の文理に照らしても、地方公共団体の長は、管理者が作成した予算の原案を出来る限り尊重することが予定されているものと解される。
本件補助金の交付が給与条例主義を潜脱⇒本件予算は、違法な支出内容を含むものであった。
but
前記の地方公営企業法の規定の趣旨⇒地方公共団体の長が、地方公営企業の予算の調整に当たり、管理者の作成した予算案の内容につき、個々の支出内容の適法性を確認すべき義務を負っているとまでは言い難いように思われる。
地方公営企業における予算は、議会の議決を経て、企業の収入及び支出の大綱を定めるものとして成立するものにすぎず、本件補助金は、飽くまでも本件交付決定に基づいて交付されるもの。
●当時の企業局長(B)の損害賠償責任
①臨時従事者に対する離職せん別金の支給が長年にわたって行われており、市企業局は、前記支給に関する交付要綱を定めるなどして、前記支給を前提として競艇事業を運営してきた。
②臨時従業員に対する離職せん別金の支給が労働協約を前提とするものであったこと等
⇒
当時の企業局長(B)としては、市及び市企業局における従前の運用を踏襲して本件交付決定をしたということができる。
but
管理者である企業局長は、企業管理規程や従前の運用にかかわらず、業務執行の適正を確保すべき地位にある
⇒Bの過失の有無を検討するに当たり、従前の運用に従ったという事実を過度に重視することはできない。
特に、市議会の委員会において、繰り返し、離職せん別金の支給を問題視する発言がされていた
⇒企業局長として、離職せん別金補助金の適法性を再確認する機会はあったと評価せざるを得ない。
本判決:
地方公営企業の管理者としての地位(責任)を確認した上で、市議会の委員会における質疑応答その他の事情を摘示してBの過失を肯定
~
長年にわたる組織的慣行を安易に踏襲することの問題を指摘。
●当時の企業局次長(C)の損害賠償責任
本件交付決定は、財務会計上の権限を有する企業局長(B)によるものであって、Cが適切な助言等をすべきであったということはできるとしても、特段の事情がない限り、Cの関与と本件交付決定との間に相当因果関係があったということは難しい。
事実関係いかんによって、財務会計行為を補助すべき立場にある職員が、違法な財務会計行為について不法行為責任を負う場合があり得ること自体は否定し難い
(ex.当該職員が、違法不当な手段を用いて、当該権限を有する職員をして違法な権限行使をさせた場合、違法な財務会計行為であることを認識しながら積極的に違法行為に加担しており、共同不法行為者であると評価できる場合等が考えられる)。
but
Cは、共済会規約に基づき共済会会長となり、本件補助金の交付の申請をしているものの、本件交付決定の当時、離職せん別金補助金の違法性が明らかであったというわけではなく、Cが本件補助金の違法性を認識しながら、前記申請をしたといった事情もうかがわれない。
判例時報2436
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