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2020年5月 4日 (月)

道路の占有料の納入告知が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるとされた事例

大阪地裁R1.7.31     
 
<事案>
船場センタービルの区分所有者の団体の管理者であるXが、YがXに対してした、本件ビルを占有物件とする本件高速道路高架下の占有に係る、平成26年度から平成30年度までの各占有料の納入告知が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当⇒その取消しを求めるなどした。 

Y:独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法の定めるところにより設立された独立行政法人であり、いわゆる日本道路公団等の民営化に伴い、阪神高速道路公団が行って本件ビルに係る業務を承継した。
 
<争点>
本件各納入告知がYの裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるか。 
 
<判断>
・・・Yの合理的な裁量に委ねられているところ、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるべきものと解するのが相当。

・・・の点等を考慮すると、
大阪市が本件道路の敷地のうちYが所有する部分に固定資産税等を賦課するに至ったとの理由で平成26年度から平成30年度までの本件ビルに係る占有料を前記固定資産税等の額と同額と定めたYの判断は、
重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたもの

本件各納入告知は、いずれも、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべき

Xの請求をいずれも認容。
 
<解説>

道路整備特別措置法33条により読み替えて適用する道路法39条1項:
Yは、道路の占有につき占有料を徴収することができる旨規定。

道路整備特別措置法施行令12条1項により読み替えて適用する道路法施行令19条1項:
占有料の額について規定。

道路整備特別措置法施行令12条1項により読み替えて適用する道路法施行令19条3項6号:
Yは、前項の額の占有料を徴収することが著しく不適当であると認められる占有物件で、国土交通大臣が定めるものについて、特に必要があると認めるときは、前記の額の範囲内において別に占有料の額を定め、又は占有料を徴収しないこと(占有料の減免)ができる旨規定。

道路法39条1項本文や道路法施行令19条3項の文言に加え、同項の定める占有料の減免の要件は、「特に必要があるとき」という抽象的なものを含む上、占有料をどの程度減額するかについて法令上の基準がない
占有料を徴収するか否か及びこれを徴収する場合の額の決定は、Yの合理的な裁量に委ねられているものと解される。
 

裁量権の行使としてされた行政行為に対する司法審査の在り方:

本判決は、近時の最高裁判例(最高裁H18.2.7)において示された、いわゆる判断過程統制の枠組みを採用。
本件:
Yは、要するに、それまで免除されていた固定資産税等が賦課されることになったという一事のみをもって占有料の減免をしないこととし、かつ、固定資産税等の全額を占有料としてXに転嫁することとしたもの
このような判断過程が合理的であったといえるかが問題

●本判決:
(1)本件ビルの特殊性、
(2)Xが占有料の前払い的な性格を有するものと認められる多額の費用を分担したこと等が十分考慮されていないこと等

本件各納入告知は、いずれも、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法。
(Xが長年にわたって占有料を免除されてきた⇒一定の保護に値する期待的利益が生じており、Yにおいて、いわゆる激変緩和のために、当初は固定資産税等の額の一部を転嫁することから始めて、段階的に占有料の額を増額するという措置を検討することなども考えられるのに、そのようなことが十分検討された形跡もないという問題もある)

(2)の分担金が占有料の前払い的な性格を有するものといえるか?
①本件ビルと本件道路との構造上の不可分一体性
②本件ビルとその敷地との間に約定利用権が設定されていない
③この分担金が税法上Xの繰延資産と位置付けられ、Xの会計上も償却処理されていることなど
本件各納入告知の時点において回顧的に評価するならば、同分担金は占有料の前払い的な性格を有するものと認めるのが相当である旨判示。

本件ビルの特殊性のみならず、前記分担金の額についても考慮
⇒本件ビルが存続する限り占有料を全額免除しなければならないとは必ずしもいえないことになるものと思われる。

前記分担金の額をもって占有料を賄えるとの評価が成立するかという点について疑義が生ずるに至った場合、占有料を徴収するとの判断が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとはいえないという方向に働く事情。

●本判決は、平成26年度納入告知について、行手法14条1項本文の定める理由の提示を欠いた違法な処分であると判示。

本件各納入告知は、処分基準と同様に考慮すべき通達を根拠として占有料の額を算定したものであるところ、その適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、いかなる理由に基づいて占有料の額が定められたのかを知ることは困難であるのが通例であると考えられるにもかかわらず、それが示されていなかったもの。
最高裁H23.6.7の考え方を事案に当てはめたもの。 
判例時報2435

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