付審判決定により原審裁判所の審判に付された、私服警察官による特別公務員暴行陵虐致傷事件
<原審>
①被告人らによる撮影行為:
犯収法違反捜査に必要な正当なもので、撮影方法や態様も一般的に許容される任意捜査の限度内で相当⇒適法
②被害者によるBの逮捕行為:
被告人らの撮影行為が適法⇒現行犯逮捕の要件を満たさない⇒被害hさのBの行動の自由を奪う逮捕は違法⇒被告人らにとっては「急迫不正の侵害」にあたる。
③被告人が被害者からBを解放した行為:
違法な逮捕からBを開放するために必要かつ最小限度の有形力を行使⇒正当防衛が成立。
④被害者による被告人の逮捕行為:
被告人のBを開放する行為は適法⇒現行犯逮捕の要件を満たさず客観的に違法⇒被告人にとって「急迫不正の侵害」にあたる。
⑤被害者による逮捕から逃れるための被告人の暴行:
行動の自由を確保するためにやむを得ず行った行為であり、防衛行為の範囲内にある⇒傷害の結果が後遺症の残る重大なものであったとしても正当防衛が成立。
<判断>
原審を支持して控訴を棄却。
but
原判決の判断過程の一部には直ちに首肯できない部分がある
⇒被害者による被告人らの逮捕行為が「社会的正当行為」にあたるとする控訴趣意につき、原審とは異なる判断。
<解説>
●刑法36条1項の「不正」は違法と同義⇒違法性が阻却される行為に対して正当防衛は成立しない。
本件の具体的状況の下で、私人である被害者の逮捕行為につき違法性が阻却されるならば、「不正の侵害」とは言えなくなる⇒被告人には正当防衛が成立しない。
判断:
①被害者は、不審者であると思ったBや被告人を、警察官が臨場するまで引き留めようとした⇒被害者の立場からすれば、Bや被告人の行動に不信の念を抱くこと自体には無理からぬ面があることは否定できない。
②こうした本件の特殊事情を違法性の錯誤であるとして「これを正面から考慮することなく、急迫不正の侵害の有無を判断した原判決の判断過程は、直ちには首肯することができない。」
③本件の具体的事情の下で、被害者がBを不審者であると認識したこと自体には無理からぬ面があり、相手に声を掛けて、何をしているのかを確認しようとして、その際、相当な範囲で若干の引き留め行為をしたとしても、直ちに「不正の侵害」に当たるとはいえない。
but
具体的な事実の当てはめにおいて、
本件の行為態様は「被害者が被告人らの身体等を執ようにつかむなどした行為」であり、「相当な範囲での若干の引き留め行為とはいえず、行き過ぎたもの」
⇒
結論としては、原判決と同様、「不正の侵害」に当たる。
●刑法35条の適用がある違法性阻却事由には、様々な非定型の社会的に正当な行為も含まれる。
⇒
私人による現行犯逮捕という法令行為の違法性阻却事由が否定されたからといって、直ちに他の社会的正当行為による違法性阻却事由が認められなくなるわけではない。
①被告人らによる撮影行為:
犯収法違反捜査に必要な正当なもので、撮影方法や態様も一般的に許容される任意捜査の限度内で相当⇒適法
②被害者によるBの逮捕行為:
被告人らの撮影行為が適法⇒現行犯逮捕の要件を満たさない⇒被害hさのBの行動の自由を奪う逮捕は違法⇒被告人らにとっては「急迫不正の侵害」にあたる。
③被告人が被害者からBを解放した行為:
違法な逮捕からBを開放するために必要かつ最小限度の有形力を行使⇒正当防衛が成立。
④被害者による被告人の逮捕行為:
被告人のBを開放する行為は適法⇒現行犯逮捕の要件を満たさず客観的に違法⇒被告人にとって「急迫不正の侵害」にあたる。
⑤被害者による逮捕から逃れるための被告人の暴行:
行動の自由を確保するためにやむを得ず行った行為であり、防衛行為の範囲内にある⇒傷害の結果が後遺症の残る重大なものであったとしても正当防衛が成立。
<判断>
原審を支持して控訴を棄却。
but
原判決の判断過程の一部には直ちに首肯できない部分がある
⇒被害者による被告人らの逮捕行為が「社会的正当行為」にあたるとする控訴趣意につき、原審とは異なる判断。
<解説>
●刑法36条1項の「不正」は違法と同義⇒違法性が阻却される行為に対して正当防衛は成立しない。
本件の具体的状況の下で、私人である被害者の逮捕行為につき違法性が阻却されるならば、「不正の侵害」とは言えなくなる⇒被告人には正当防衛が成立しない。
判断:
①被害者は、不審者であると思ったBや被告人を、警察官が臨場するまで引き留めようとした⇒被害者の立場からすれば、Bや被告人の行動に不信の念を抱くこと自体には無理からぬ面があることは否定できない。
②こうした本件の特殊事情を違法性の錯誤であるとして「これを正面から考慮することなく、急迫不正の侵害の有無を判断した原判決の判断過程は、直ちには首肯することができない。」
③本件の具体的事情の下で、被害者がBを不審者であると認識したこと自体には無理からぬ面があり、相手に声を掛けて、何をしているのかを確認しようとして、その際、相当な範囲で若干の引き留め行為をしたとしても、直ちに「不正の侵害」に当たるとはいえない。
but
具体的な事実の当てはめにおいて、
本件の行為態様は「被害者が被告人らの身体等を執ようにつかむなどした行為」であり、「相当な範囲での若干の引き留め行為とはいえず、行き過ぎたもの」
⇒
結論としては、原判決と同様、「不正の侵害」に当たる。
●刑法35条の適用がある違法性阻却事由には、様々な非定型の社会的に正当な行為も含まれる。
⇒
私人による現行犯逮捕という法令行為の違法性阻却事由が否定されたからといって、直ちに他の社会的正当行為による違法性阻却事由が認められなくなるわけではない。
現行犯逮捕の際に許容される実力行使の限度を必要性と相当性の観点から社会通念によって判断するという最高裁昭和50.4.3の判断枠組⇒
本件の場合、被害者において被告人らを不審者と思うのが無理からぬ⇒「何をしているのかを確認」するために「相当な範囲で若干の引き留め行為」をすることは、社会通念上許される正当な行為。
~
その対象者が適法な捜査中の警察官であれ違法なプライバシー侵害者であれ、当然になしうる行為⇒対象者の錯誤は社会的正当行為の成否とは関係がない。
⇒
被害者側の違法性の錯誤を理由に本件の特殊事情を顧慮せず、社会的正当行為としての違法性阻却事由の有無を検討しなかった原判決の判断過程には誤りがある。
仮に、被害者の行為がこの範囲内の行為にとどまる中で本件の被告人の暴行が大なわれた場合:
社会的相当性として違法性が阻却される⇒被告人の正当防衛の要件である「急迫不正の侵害」は否定されることになる。
本件の場合、被害者において被告人らを不審者と思うのが無理からぬ⇒「何をしているのかを確認」するために「相当な範囲で若干の引き留め行為」をすることは、社会通念上許される正当な行為。
~
その対象者が適法な捜査中の警察官であれ違法なプライバシー侵害者であれ、当然になしうる行為⇒対象者の錯誤は社会的正当行為の成否とは関係がない。
⇒
被害者側の違法性の錯誤を理由に本件の特殊事情を顧慮せず、社会的正当行為としての違法性阻却事由の有無を検討しなかった原判決の判断過程には誤りがある。
仮に、被害者の行為がこの範囲内の行為にとどまる中で本件の被告人の暴行が大なわれた場合:
社会的相当性として違法性が阻却される⇒被告人の正当防衛の要件である「急迫不正の侵害」は否定されることになる。
判例時報2435
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