運転を予定している者に密かに睡眠導入剤を摂取させた上、意識障害等が現れている状況で、運転するよう仕向けた行為と殺人の実行行為(肯定)
千葉地裁H30.12.4
<事案>
運転を予定している者に密かに睡眠導入剤を摂取させ、意識障害等が現れている状況で、運転するように仕向けた⇒死傷事故⇒殺人罪の成否が問題。
<解説>
●弁護人の主張:
運転開始時のV1、V4には相応の判断能力や運転応力が備わっていた⇒被告人が睡眠導入剤を摂取させた上で運転を開始させた行為は、それによって交通事故を起こさせる危険性がないか、または非常に低いので、殺人罪の実行行為に当たらないという趣旨?
vs.
本判決:
睡眠導入剤は一般的な服用量以上で、
V1、V4にはその効果が明らかに生じていたと認めており、
事実認定レベルで弁護人の主張を排斥。
●
➀本件では、運転者V1、V4には自損・他害事故を起こす故意も危険運転の故意もない⇒死傷事故に対するV1、V4の原因行為はせいぜい過失行為。
②V1、V4が、被告人に摂取させられた睡眠導入剤による意識障害等のために、自己の運転の危険性を制御することも、危険性を認識して運転開始を思い止まることもできなかった⇒被告人は、そのようなV1、V4を道具のように理容師、死傷結果惹起の原因を支配して本件殺人(未遂)を行ったとみることができる。
⇒
V1、V4については被害者を利用した間接正犯、
同乗者V3と対向車のV2、V5については第三者V1、V4を利用した間接正犯とする構成が可能。
(V3についは、睡眠導入剤により同乗行為の危険性を認識できず、V4の運転を制御することもできなかったとみれば、被害者V3を利用した間接正犯の要素もある)。
but
本判決は、被告人の行為は、「その因果として」死亡事故を生じさせる危険性が高い行為であると述べており、間接正犯を示す表現は用いていない。
<事案>
運転を予定している者に密かに睡眠導入剤を摂取させ、意識障害等が現れている状況で、運転するように仕向けた⇒死傷事故⇒殺人罪の成否が問題。
<解説>
●弁護人の主張:
運転開始時のV1、V4には相応の判断能力や運転応力が備わっていた⇒被告人が睡眠導入剤を摂取させた上で運転を開始させた行為は、それによって交通事故を起こさせる危険性がないか、または非常に低いので、殺人罪の実行行為に当たらないという趣旨?
vs.
本判決:
睡眠導入剤は一般的な服用量以上で、
V1、V4にはその効果が明らかに生じていたと認めており、
事実認定レベルで弁護人の主張を排斥。
●
➀本件では、運転者V1、V4には自損・他害事故を起こす故意も危険運転の故意もない⇒死傷事故に対するV1、V4の原因行為はせいぜい過失行為。
②V1、V4が、被告人に摂取させられた睡眠導入剤による意識障害等のために、自己の運転の危険性を制御することも、危険性を認識して運転開始を思い止まることもできなかった⇒被告人は、そのようなV1、V4を道具のように理容師、死傷結果惹起の原因を支配して本件殺人(未遂)を行ったとみることができる。
⇒
V1、V4については被害者を利用した間接正犯、
同乗者V3と対向車のV2、V5については第三者V1、V4を利用した間接正犯とする構成が可能。
(V3についは、睡眠導入剤により同乗行為の危険性を認識できず、V4の運転を制御することもできなかったとみれば、被害者V3を利用した間接正犯の要素もある)。
but
本判決は、被告人の行為は、「その因果として」死亡事故を生じさせる危険性が高い行為であると述べており、間接正犯を示す表現は用いていない。
被害者の行為を利用した殺人について、最高裁H16.1.20:
間接正犯の点に触れることなく、
「被害者をして、自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから、被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は、殺人罪の実行行為に当たる」と判示。
⇒
この種の犯罪形態では利用行為自体が被害者を死亡させる具体的危険性のある殺人の実行行為であるとして、直接正犯とする考え方が示されている。
●伝統的に実行行為概念によって因果関係の起点、実行の着手、不能犯、正犯性等の問題を統一的に解釈することが試みられてきた。
実行行為概念を形式的に「構成要件該当行為」と定義するのではなく、より実質的に「結果発生に対する現実的危険性を帯びた行為」というように定義するのが一般的。
この種の行為には危険運転致死傷罪が適用されているという弁護人の主張に関しては、
暴走運転致死事件に殺人罪を適用する上で理論的な支障はないが、こうした運転行為の場合、自らも死傷する可能性が高い⇒運転者がこの事故危殆化を認識していない場合か、自己危殆化を避けたいと意思していない場合でなければ、故意の立証・認定が困難であり、その結果、殺人罪の適用には謙抑的になる
という分析がある。
本件では、被告人が運転も同乗もしていない⇒自己危殆化の問題は生じない。
実行行為概念を形式的に「構成要件該当行為」と定義するのではなく、より実質的に「結果発生に対する現実的危険性を帯びた行為」というように定義するのが一般的。
この種の行為には危険運転致死傷罪が適用されているという弁護人の主張に関しては、
暴走運転致死事件に殺人罪を適用する上で理論的な支障はないが、こうした運転行為の場合、自らも死傷する可能性が高い⇒運転者がこの事故危殆化を認識していない場合か、自己危殆化を避けたいと意思していない場合でなければ、故意の立証・認定が困難であり、その結果、殺人罪の適用には謙抑的になる
という分析がある。
本件では、被告人が運転も同乗もしていない⇒自己危殆化の問題は生じない。
●控訴審:
本判決が自己に巻き込まれた対向車の運転者についても未必の故意を認めた点を事実誤認とし、本判決を破棄して原審に差し戻した。
判例時報2434
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